京都医塾物理科です。
このページでは「川崎医科大学医学部の物理」についての過去問分析コメントを紹介します。
・“医学部受験に興味がある”という方
・“川崎医科大学医学部”の受験を考えている方
・“川崎医科大学医学部の物理がどのような問題か知りたい”という方
オススメの記事となりますので、興味のある方はご一読ください。
目次
概要
【形式・制限時間・配点】2023年度
形式:マーク式(択一式)
時間:2科目120分
大問数:5題(年度によりばらつきが大きい)
配点:75点(1次試験全体の配点は350点)
出題の傾向と特徴
2016年度以降の8年分について、分野別の傾向をまとめます。
【力学】
毎年、1題は出題されています。出題テーマは
・「モンキーハンティング、ばねにつながれた2球の連成振動(2023)」
・「等速度運動する観測者から見た2球の衝突、楕円軌道上を周回する惑星の運動(2022)」
・「鉛直投げ上げ、転がる車輪上の定点の軌跡(2021)」
・「(小)雨粒と台車の衝突、(小)ロケットの分離 (2020)」
・「剛体棒のつりあい(2019)」
・「速さの平均変化率、自転と緯度の関係、非慣性系における液圧(2018)」
・「円錐振り子と円錐側面での円運動(2017)」
・「円筒内での円運動、斜方投射、ばね振り子のつりあい(2016)」
です。
これらから分かるように、幅広い単元から出題されています。半数程度は教科書基本レベルですが、適切なグラフを選ぶ定性判断、定義からの平均の速さの導出、ロケットの分離で漸化式を立てるなど、本格的な議論を求められる問題も一定の割合で出題されています。例えば2020年度であれば、衝突や分離を題材としているため、適切に運動量保存則を立てられるかどうかが勝負を分けました。手持ちの問題集(学校で配られるような教科書傍用問題集で十分です)を使い、基本的な題材を中心とした問題演習を積んでおきましょう。
【電磁気】
毎年、1題は出題されています。出題テーマは
・「コンデンサーを含む直流回路、電気振動(2023)」
・「半導体ダイオードを含む直流および交流回路(2022)」
・「RLC交流回路(2021)」
・「磁場中で単振動する導体棒、磁場中でのα線・β線の運動(2020)」
・「複数の電流がつくる磁場および電流が磁場から受ける力(2019)」
・「点電荷のつくる電場・電位、電流計と電圧計の内部抵抗(2018)」
・「磁場中で回転する導体棒(2017)」
・「磁場中での荷電粒子の運動(2016)」
です。
これらから分かるように、幅広い単元から出題されています。多くは教科書基本レベルですが、最後の単元の交流まで満遍なく学習しておく必要があります。その交流では、位相のずれを押さえておくことが重要になります。抵抗では電流と電圧の位相差がありませんが、コイルでは電流に比べて電圧の位相がπ/2遅れ、コンデンサーでは電流に比べて電圧の位相がπ/2進みます。2021年度は、これを直接グラフ選択で問う問題が出題されているので、教科書で知識を確認しておきましょう。
【波動】
2016年度以降の8年間で、5題出題されています。出題テーマは
・「回折格子、ドップラー効果、異なる媒質へ進む波(2023)」
・「ドップラー効果(2021)」
・「ヤングの実験(2019)」
・「水面波の干渉 (2017)」
・「薄膜干渉(2016)」
です。
2017年度と2021年度は、公式一辺倒では答えられない思考力を要する問題でした。一方で、2016年度の薄膜干渉、2019年度のヤングの実験、2023年度の回折格子は教科書に収録されている実験であり、カギとなる経路差はそれぞれ2dcosΦ、dx/L、dsinθです。教科書でも、もう一度知識を確認しておきましょう。
【熱力学】
2016年度以降の8年間で、5題出題されています。出題テーマは
・「単原子分子理想気体の分子運動論(2022)」
・「比熱・熱容量の測定(2021)」
・「球形容器内の気体の分子運動論(2019)」
・「立方容器内の気体の分子運動論、p–Vグラフ(2017)」
・「小球のエネルギーによる水の加熱(2016)」
です。
傾向からは、比熱等の計算や、気体の分子運動論の出題頻度がやや高いと言えます。しかし、市販の問題集などでは気体の状態変化に関するものの収録比率が高いので、盲点となりがちな単元です。そのため、上記単元については、教科書傍用問題集などを使い、演習を積んでおきましょう。
【原子物理】
2016年度以降の8年間で、5題出題されています。出題テーマは
・「質量欠損、対消滅(2022)」
・「α崩壊・β崩壊(2020)」
・「コンプトン効果 (2018)」
・「核融合(2017)」
・「素粒子(2016)」
です。
原子物理は解法がワンパターンな題材が多く、例えばコンプトン効果であれば「エネルギー保存則と運動量保存則」の2式を連立すれば解くことができます。手持ちの問題集(または教科書傍用問題集)を元に、解法の流れを一通り確認しておきましょう。
また、2016~2018年度は、素粒子に関する知識が問われました。多くは教科書基本レベルですが、最後の単元の素粒子まで満遍なく学習しておく必要があります。教科書を最後まで通読して、できる限り知識を詰め込んでおきましょう。
【制限時間に対する問題量】
2023年度は2科目120分で大問5題を解答する必要がありました。1科目60分と考えると、大問1題あたりの時間は12分となります。また、問題量も計算量も多くないため、思考に費やせる時間は十分にあります。複数の角度から導いた答えを検証できるように、様々な解法に習熟しておくとよいでしょう。
2023年度(最新の過去問)の分析
さらに踏み込んで、最新の入試問題を具体的に分析したいと思います。
※以下、過去問をお手元にご覧になるのが理想的ですが、過去問がなくても問題なくお読み頂けます。
【第1問】
「モンキーハンティング」と称される、空中での2球の衝突を考察する問題です。投射角を与えていないため、必要な三角比は自分で求める必要があります。また、誘導形式になっていないため、運動の全体像がつかめていなければ解き進めるのが難しい問題です。さらに、問1からいきなり空中で衝突するための必要条件が問われているため、戸惑った受験生も多かったと思われます(通常のオーソドックスなモンキーハンティングであれば、設問の中盤かそれ以降で考察する条件です)。
問2以降については、小球Aが小球Bに水平方向から衝突をします。このとき、衝突が弾性的であり、かつ2球の質量が等しいため、水平方向については速度交換が起こります。こういったよくある状況についての結論を事前に知っておき、手際よく計算を進めていく必要があります。それ以外を見ても、全体的に計算量が多く、時間も消費しやすいため、後回しにするという勇気も必要な問題でした。
≪2023年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…6~7割
他教科を得点源にしたい受験生…5~6割
【第2問】
ばねにつながれた2球の連成振動を考察する問題です。問1は片方の小球のみを単振動させるため、平易であり、完答必須です。一方で、問2は2球の連成振動の考察が求められているため、難易度が大きく上がります。とは言え、問われている内容が時刻と速度、および時刻と位置の関係を表すグラフの概形です。そのため、以下に挙げるような特徴を踏まえれば、グラフは1つに絞ることができます。
・運動開始後は系全体が水平方向に外力を受けないため、重心が等速度運動をすること。
・重心から見て各小球が単振動を行うこと。
・t=0で小球1がx=0、v>0であり、小球2がx=L、v=0であること。
≪2023年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…8~10割
他教科を得点源にしたい受験生…6~8割
【第3問】
問1~3でそれぞれ独立した問題となっています。
問1は、回折格子についての問題です。設問はすべて基本的であるため、完答が望まれます。
問2は、ドップラー効果についての問題です。音源が動く場合と観測者が動く場合のそれぞれについて、(相対的な)速さ、波長、振動数が定性的にどのように変化するのかが問われています。振動数を求める公式を暗記しているだけであれば、選択肢を正しく判断できません。もしそうであれば、教科書を確認して、一度原理から復習しておきましょう。
問3は、異なる媒質へ進む波について、こちらも速さ、波長、振動数が定性的にどのように変化するのかを問う問題でした。一般に、異なる媒質へ進む場合には、振動数が変わりません(そのため、速さと波長が比例して変化します)。重要な知識なので、押さえられていないという人は、確実に押さえておきましょう。
≪2023年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…8~10割
他教科を得点源にしたい受験生…7~8割
【第4問】
コンデンサーとコイルを含む直流回路を題材とした問題です。前半は、コンデンサーと抵抗のみから成る部分について、過渡現象を考える問題です。この回路においては、スイッチを閉じた直後は電荷が0のままで、十分時間が経過した後は電流が0となります。典型かつ基本的な問題であるため、完答が望まれます。
後半は、スイッチを切り替えてコンデンサーとコイルをつなぐため、電気振動となります。こちらも、状況そのものは典型かつ基本的です。ただし、電圧やエネルギーの時間変化が具体的な関数として問われているため、これらを正確に導出する必要があります。いきなり式を立てようとするとやや難しいため、いったんグラフを描くとよいでしょう(正の向きには気を付けてください)。そのグラフを元に式を考えると、組み立てやすくなります。
≪2023年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…8~10割
他教科を得点源にしたい受験生…6~8割
【総評】
例年、難易度としては基本的な問題が多く、全5分野から満遍なく出題が見られます。しかし、2023年度は力学、電磁気、波動のみから出題され、熱力学と原子物理からは出題されませんでした。ごく一部に煩雑な計算や思考を求められることもありますが、そのような問題を取捨選択できれば、広く浅い出題であるために、高得点を狙いやすい大学です。ただし、2023年度は思考力を要する問題が例年よりも多く出題されたため、傾向の変化には注意が必要です。
まとめ
というわけで、今回は川崎医科大学医学部の物理についてまとめてみました。皆さんの参考になれば幸いです!
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