京都医塾物理科です。
このページでは「兵庫医科大学医学部の物理」についての過去問分析コメントを紹介します。
・“医学部受験に興味がある”という方
・“兵庫医科大学医学部”の受験を考えている方
・“兵庫医科大学医学部の物理がどのような問題か知りたい”という方
オススメの記事となりますので、興味のある方はご一読ください。
目次
概要
【形式・制限時間・配点】2022年度
形式:記述式(ほぼ全ての設問で導出過程も問われる)
時間:2科目120分(B方式は1科目60分)
大問数:5題(全5分野から1題ずつ出題)
配点:100点(1次試験全体の配点は500点)
出題の傾向と特徴
2016年度以降の8年分について、分野別の傾向をまとめます。
【力学】
毎年、1題は出題されています。出題テーマは
・「糸でつながれた剛体棒のつりあいおよび剛体棒の先につけられた小球の円運動(2023)」
・「台の斜面上に置いた小物体の運動(2022)」
・「テニスボールを相手側コートに入れる条件(2021)」
・「摩擦のある斜面上における2物体の運動(2020)」
・「水中における木片のつりあい、摩擦のある円すい内面に沿った円運動(2019)」
・「2つの小物体を取り付けた軽い剛体棒のつりあい、糸に取り付けた小球の運動(2018)」
・「小球の斜方投射、糸やばねに取り付けた小球の円すい振り子(2017)」
・「小球どうしの衝突で引き起こされた円運動(2016)」
です。
これらから分かるように、万有引力を除く全ての単元から、幅広く出題されています(単振動についても、2021年度に電磁気分野との融合問題である「電気ブランコ」で、周期や振れ角を問う設問が出題されています)。中でも、円運動は直近8か年のうち4回出題されており、やや頻度が高くなっています。円運動する物体については、その速さ \(v\) や向心加速度の大きさ \(a\) が
\(v=r\omega\) ,\(a=\frac{v^2}{r}=r\omega^2\) (\(r\):半径,\(\omega\):角速度)
となることを、必ず押さえておきましょう。
【電磁気】
毎年、1題は出題されています。出題テーマは
・「一様磁場中を運動する導体棒(2023)」
・「コンデンサーを含む直流回路(2022)」
・「コンデンサーのつなぎ替え、電気ブランコ(2021)」
・「一様な外部磁場の有無による電子の円運動の変化(2020)」
・「自己誘導、コンデンサーを含むブリッジ回路(2019)」
・「3枚の極板で形成されたコンデンサーの充電(2018)」
・「2つの点電荷がつくる静電場および2つの電流がつくる静磁場、RLC交流回路(2017)」
・「電磁場中の荷電粒子の運動(2016)」
です。
これらから分かるように、電磁気も全ての単元から幅広く出題されていますが、中でも、コンデンサーが題材として含まれる場合が多く見られます(2017, 2018, 2019, 2021, 2022)。また、2020年度と2016年度で荷電粒子の運動が出題されましたが、荷電粒子の運動は、その多くが一様な電場または磁場で行われます。そのため、一様電場の場合は等加速度運動、一様磁場の場合は等速円運動になることを、必ず押さえておきましょう。
【波動】
毎年、1題は出題されています。出題テーマは
・「ドップラー効果によるうなり(2023)」
・「プリズムを通過する光の進路(2022)」
・「球面レンズと円筒面レンズを用いたニュートンリング(2021)」
・「ドップラー効果により波長の変化した音波の干渉(2020)」
・「電波望遠鏡における電波の干渉(2019)」
・「y–xグラフからy–tグラフへの変換、プリズムを通した光の進路(2018)」
・「ニュートンリング(2017)」
・「プリズムを通した光の進路(2016)」
です。
波動もやはり幅広く出題されていますが、中でも、波の干渉に関する題材が直近8か年のうち5回出題されており、頻出と言えるでしょう。波の干渉、特に光波の干渉については、その干渉条件の式が、
強めあう条件:光路差\(=m\lambda\)
弱めあう条件:光路差\(=(m+\frac{1}{2})\lambda\) (\(m\):整数,\(\lambda\):真空における波長)
※ ただし、反射で位相が \(\pi\) ずれる(逆転する)ごとに、条件式が反転する。
とまとめられます。重要な関係式なので、必ず押さえておきましょう。
【熱力学】
毎年、1題は出題されています。出題テーマは
・「球形の弾性膜で閉じた気体の状態変化(2023)」
・「ピストンで閉じた気体の状態変化(2022)」
・「スターリングサイクル(定積・等温変化からなる熱サイクル)(2021)」
・「円筒容器内における気体の分子運動論(2020)」
・「ばね付きピストンで閉じた気体の状態変化(2019)」
・「p–Vグラフ(2018)」
・「気体の混合(2017)」
・「氷の融解および氷と水の比熱計算(2016)」
です。
熱力学も、幅広く出題されています。2021年度のスターリングサイクルは、熱効率が理論的に最大となる有名な熱サイクルであり、他大学でも類題がよく見られます(2019愛知医科大学など)。そのため、一度は触れておきたい題材です。なお、その理論熱効率eは
\(e=1-\frac{T_L}{T_H}\) (\(e\):熱効率,\(T_L\):低温熱源の温度,\(T_H\):高温熱源の温度)
となることが知られています。知識にしておくとよいでしょう。
【原子物理】
直近8か年で、7回出題されています(2021年度は出題がありませんでしたが、これは新型コロナウイルスの流行による学校進度の遅れに配慮した、例外的なものと思われます)。出題テーマは
・「中性子線の照射によるホウ素10の核反応(2023)」
・「X線の発生、ブラッグ反射(2022)」
・「放射能に関する各種知識および定量計算(2020)」
・「電子線を用いたブラッグ反射、リン30に関する核反応(2019)」
・「ウラン238とウラン235の天然存在比、光電効果(2018)」
・「素粒子に関する各種知識、X線の発生およびそれによるコンプトン効果(2017)」
・「ウラン235に関する核反応、ボーアモデル(2016)」
です。
全体的に見て、他大学よりも幅広い知識が問われる傾向にあります。また、2017年度は、素粒子に関する知識も問われました。多くは教科書基本レベルですが、最後の単元の素粒子まで満遍なく学習しておく必要があります。教科書を最後まで通読して、できる限り知識を詰め込んでおきましょう。
【制限時間に対する問題量】
2023年度は2科目120分で大問5題を解答する必要がありました。1科目60分と考えると、大問1題あたりの時間は12分となり、非常に時間制限は厳しいです。したがって、思考に使える時間はほとんどないと考えておきましょう。
2023年度(最新の過去問)の分析
さらに踏み込んで、最新の入試問題を具体的に分析したいと思います。
※以下、過去問をお手元にご覧になるのが理想的ですが、過去問がなくても問題なくお読み頂けます。
【第1問】
一様磁場中を運動する導体棒を考察する問題です。前半は導体棒が静止している状態、後半は導体棒が等速直線運動をしている状態をそれぞれ考察します。いずれも、導体棒の力学的な条件(前半、後半ともに加速度が0なので力がつりあう)と、回路全体から成り立つ方程式(キルヒホッフの第2法則)を連立して、解き進められます。類題も多く、設問はすべて基本から標準レベルであるため、完答が望まれます。
≪2023年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…9~10割
他教科を得点源にしたい受験生…7~8割
【第2問】
糸でつながれた剛体棒のつりあい、および剛体棒の先につけられた小球の円運動を考察する問題です。前半は糸につながれた剛体棒のつりあいですが、剛体のつりあいの基本通り、力のつりあいと力のモーメントのつりあいを連立すれば、全ての設問に答えられます。棒Bが支点Oから受ける力は、水平・鉛直成分に分けて求めて置き、後で合成すればよいでしょう。ただし、やや計算量は多いです。
後半は、糸を切った後で、剛体棒の先につけられた小球の円運動を考察します。こちらは非等速円運動となるため、やはりその典型解法通り、力学的エネルギー保存則と向心方向の運動方程式から解き進められます。最後には小球Cと衝突をさせますが、その後の振れ角から衝突後の小球Aの速さが求まるため、これと衝突における運動量保存則を連立すれば、衝突後の小球Cの速さも求められます。
≪2023年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…8~10割
他教科を得点源にしたい受験生…6~7割
【第3問】
ドップラー効果によるうなりを考察する問題です。設問として問われているものが振動数ばかりなので、基本的には公式を駆使して解き進めればよいでしょう。(5)までは平易であるため、完答が望まれます。(6)は、着想自体は(5)と同様であるものの、計算が煩雑です。また、「音源Sの速さは、空気中の音速Vに比べて十分小さいとする」という但し書きがあるため、要領よく近似をする必要があります。そのため、制限時間が厳しいとなれば、スキップしてもよいでしょう。
≪2023年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…7~8割
他教科を得点源にしたい受験生…6~7割
【第4問】
球形の弾性膜で閉じた気体の状態変化を考察する問題です。あまり類題のない問題であるため、戸惑った受験生も多かったものと思われます。弾性膜の球形容器については、その仕事と温度依存性について与えられた仮定を用いて考察をしますが、初見での対応は難しいでしょう。
方針として、前半では、内部の気体と弾性膜の球形容器をいったん切り分けてそれらがされた仕事を導出し、さらにこれらを1つの系として熱力学第一法則を適用します。後半では温度依存性を踏まえた上で、同じ系について、断熱条件における熱力学第一法則を適用します。じっくりと考察するにはよい問題ですが、厳しい制限時間内では、解ける設問に絞って解いておくのが現実的です。本問では、(1)~(3)がそれにあたります。
≪2023年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…5~6割
他教科を得点源にしたい受験生…4~5割
【第5問】
中性子線の照射によるホウ素10の核反応を考察する問題です。核反応を題材とした問題としては、標準的な設問構成となっています。(1)と(2)は基本的なので、完答必須です。(3)は核反応前後における運動量保存則とエネルギー保存則を立式して解きますが、設問が誘導になっているため、それに沿って解けばよいでしょう。(4)は質量の減少分に相当する静止エネルギーを数値計算しますが、やや計算が煩雑です。(5)は、与えられた数値を代入した上で、(3)と(4)の結果を総合すれば導出できます。しかし、(4)にも増して計算が煩雑なので、時間と相談して解くかどうかを決めましょう。
≪2023年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…7~8割
他教科を得点源にしたい受験生…5~6割
【総評】
例年、難易度は基本~やや難まで幅広く、時には高校物理を超えた内容も出題されます。しかも、1科目あたり60分で5題を解かなければならないため、時間的な余裕は全くありません。そのため、そのような問題を見極めて取捨選択し、標準レベルまでの典型題を素早く解き進める必要があります。2023年度もこの通りの出題であったため、計算量の多い設問や難易度の高い大問は見切りをつけ、そういった部分に時間をかけ過ぎないことが、合格点を取るために重要となります。また、全ての設問において導出過程も記すことになるため、解答時間を意識した過去問演習を十分に積んでおきましょう。
まとめ
というわけで、今回は兵庫医科大学医学部の物理についてまとめてみました。皆さんの参考になれば幸いです!
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