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実物を見て学ぶ高校生物④二胚葉性

実物を見て学ぶ高校生物④二胚葉性

京都医塾生物科の廣瀬です。

直接目にする機会を作ることができる生き物を通して高校生物で学習する内容に触れていくことで、教科書で学ぶ事柄を少しでも身近に感じられるように、というコンセプトで書いています。

突然ですが、今回は二胚葉動物です。

ミズクラゲ

高校生物の教科書では、動物の系統の中で二胚葉性をもつ動物門としては刺胞動物だけを扱っています。クラゲ以外にヒドラ、イソギンチャク、サンゴなどが含まれる動物門です。これ以外に、クシクラゲなどが属する有櫛(ゆうしつ)動物も二胚葉動物に含まれています。

有櫛動物の一種、カブトクラゲ

2022年度私立医学部入試の初日、愛知医科大学の受験を終えて京都医塾に戻ってきた生徒から、「動物が左右相称の体制を獲得した時期を聞かれた…」という話が出てきていました。放射相称と左右相称との境界は二胚葉動物と三胚葉動物の間にありますので、今回は二胚葉動物について紹介してみることにします。ちなみに、無胚葉動物と呼ばれることもある、刺胞動物よりもさらに原始的な動物門である海綿動物には、相称性は存在していません。

二胚葉、というのは、発生過程で外胚葉と内胚葉のみを生じ、中胚葉を生じない、というつくりのことです。

ふたたびミズクラゲです。からだの中央に見えるクローバー状の構造は、胃腔と、それを縁取るような形で配置されている生殖腺です。中央に口があり、取り込んだ食物が放射状に広がって消化され、消化されたものは更に傘の縁の方まで放射状に拡がっていきます。このように、からだの構造が中心から放射状に対称性をもって広がっていることを放射相称と呼んでいるわけです。ミズクラゲでは傘の縁に時々くびれている部分がありますが、ここには眼点と呼ばれる光を受容する構造があり、ヒトのロドプシンとも類似した視物質を持っています。

水族館でクラゲを見ると、時折このクローバー構造にピンクがかった色がついていることがあります。これは与えられた餌を上手く摂食できているため、内部に取り込まれた餌が透けて見えている、ということなのです。

イソギンチャクやサンゴの仲間には、褐虫藻の仲間を細胞内に共生させているものがいます。そのため、内部に取り込んだ褐虫藻の色合いによって、様々な色に見えています。その体内では、褐虫藻が光合成によって得た有機物をイソギンチャク(サンゴ)に与え、イソギンチャク(サンゴ)は褐虫藻に栄養塩類を与える、という相利共生の関係が成り立っているのですが、高温などのストレスがかかると宿主から褐虫藻が放出されてしまうため宿主が十分なエネルギーを得られなくなってしまいます。近年、温暖化等の影響と関連して話題になる「サンゴの白化」は、褐虫藻が体内にいなくなってしまったサンゴが必要な有機物を得られずに死んでしまう現象なのです。

相利共生といえば、イソギンチャクとクマノミの例も有名ですね。刺胞動物は、触手に何かが触れると刺胞の針が飛び出してきて、中に含まれる毒が相手に注入されます。クマノミは体表面の特殊な粘液のはたらきで、この刺胞からの攻撃を受けないため、こんなにイソギンチャクに接触しても大丈夫、ということなのです。

その他、サンゴ礁での中規模撹乱が種多様性を生み出している、という例が挙げられるなど、高校生物では様々な場面で(特に生態系の分野で)刺胞動物の名前と生態が紹介されています。実際の姿をイメージするだけでも、勉強は圧倒的に楽しく、そして長期的に定着しやすくなります。「知らない生き物だ」と思ったら、まずはどんなものかを調べてみることから知識を深めていくとよいですよ。

(今回のおまけ)

前回のミナミアメリカオットセイ(全長)よりアカクラゲ(触手)の方が長いという驚愕の事実…

投稿者:廣瀬 希

  • 役職
    生物科統括/生物科講師
  • 講師歴・勤務歴
    11年
  • 出身大学
    京都大学大学院理学研究科
  • 特技・資格
    中高の理科教員免許所持
  • 趣味
    読書
  • 出身地
    岐阜県
  • お勧めの本
    ざんねんないきもの事典

受験生への一言
興味を持つこと、が理解に近づく第一歩です。いきものに興味を持って、生物の学習に取り組んでほしいです。