京都医塾物理科です。
新年度が始まり、気持ちも新たに勉強に取り組んでいる医学部志望者もたくさんおられることと思います。そんな時期に、改めて「医学部に合格できる物理の勉強方法」についてお伝えしようと思います。今回は、一度は挫折を味わった浪人生を想定して、医学部合格に向けた物理学習のポイントについてお伝えしようと思います。
目次
医学部に合格するにはどんな力が必要か
医学部を目指すからと言って、物理の学習に特別なことはありません。一般的に、高校物理の範囲内で構成される大学入試問題を解くためには、以下の①~③の力を養う必要があります。
① 物理現象を体系的に理解する力
定義、原理からどのように定理、公式が導出されているのか、一つ一つの理解を丁寧に進めていきましょう。現象を具体的にイメージする力も、それを数式で抽象的に捉える力も、ともに欠かすことのできない力です。現象のイメージだけをつかんで数式の意味を確かめない、あるいは逆に公式だけを丸暗記して現象のイメージを怠るといった学習では、合格に足る学力に到達することは難しいでしょう。
② ①で理解した内容を適切に問題で適用する力
概念を理解するだけでは、なかなかすぐには点につながりません(そもそも多くの場合、理解した気になっているだけです)。問題演習を通してその理解の枠組みを当てはめながら試行錯誤し、ミスを分析しながらより正しい理解へと修正を重ね、やがては問題を見てすぐに適切な方針を立てられるようになるまで練習を繰り返すことが必要です。
③ 数Ⅲまでの基本的な計算力
物理において数学は道具です。数学なしでは現象を数式にできません。高校数学で学習する様々な内容、例えば高次方程式、三角関数や指数・対数関数、ベクトルなどを中心として、幅広い基本的な理解が必要になります。また、高校物理の教科書本文の記述では慎重に避けられていますが、現実の入試問題(特に私立医学部)においては、時折、初歩的な微積も要求されます。大学数学に手を伸ばす必要はありませんが、高校数学で学習する内容はすべて前提とした出題がなされるので、しっかりと数学力を鍛えましょう。
①~③の力が身に付けば、「時間さえかければ解ける」という状態になります。この段階に至った後は、「時間内に解ける」という状態を目指し、合格の可能性を上げていきましょう。どの大学の医学部を目指すにしても、以下の④は必要です。
④ 問題を効率的に解くための解法の習得
一般に、入試における試験時間は短いものです。特に私立医学部は、時間制限の厳しい試験になります。「時間があれば解けたのに…」は通用しません。様々な解法を理解した上で、最適なアプローチを選択できる状態を目指します。
①~④までの力が十分に身に付けば、問題集によく収録されているような典型問題が出題の中心となる大学に関しては、十分な合格可能性を得た状態にあると言えるでしょう。しかし、いわゆる難関と言われるような医学部を目指すのであれば、以下の⑤の力の程度で、合否が大きく左右されます。
⑤ 総合的な学力(本質的な理解力、文章読解力、精確な計算力、論理的思考力・表現力など)
典型を外れると、問題の条件設定が複雑になり、問題を見てすぐに方針を立てることが難しくなってきます。問題文をよく読んで手掛かりを探し、いままでに解いてきた問題に近いものがないかを頭の中で検索し、それをどのように解き進めてきたのかという着想にまで立ち戻らなければなりません。一般に、生徒の皆さんが思っているよりも遥かに、物理の問題は緻密に作られています。問題文に、読み飛ばしてよい情報はありません。こういった問題で満足な答案を仕上げるには、慎重な文章読解力、それを支える物理現象の本質的な理解、それらをつなぎあわせる高い論理的思考力と精確な計算力、そして東大のような全記述を求める大学であれば、それを適切な言葉で表現する力まで求められます。
始めに手をつけたらいいこと
現役の頃から医学部合格を目指して研鑽を積んできている方であれば、①~③は肝に銘じて学習を進めてきていることと思われます(少なくとも、「確かにこれらが必要な力である」とは納得していただけるのではないかと思います)。しかし一方で、本格的な勉強に着手する時期が遅く、「もう時間がない」と焦ったために、仕組みの理解を後回しにして公式暗記に走り、ひたすらに問題演習を繰り返して解法パターンをも暗記するという勉強をしてきた方も多いのではないかと思われます。その結果、本番で見たことのない問題に出会い、そこで解答の糸口を全くつかめず、ほとんど満足のいく答案を仕上げることができなかったという方も多いのではないでしょうか。
つまり、このような勉強で合格を勝ち取ることは極めて困難です(偶然、解いてきた問題と同じような問題が並んでいたために高得点が取れたということは有り得るでしょうが、低い可能性です)。早い段階で勇気を出してこのような方法論に見切りをつけ、基礎理解からやり直しましょう。それも、必ず「力学」からです。現役の頃に使っていた教科書やノートを見直しながら(あるいは塾や予備校の授業を振り返りながら)、各物理量の定義や根本となる物理法則を押さえ直し、そこからの定理や公式の導出を辿り直し、そしてその理解を問題演習で確かめるといった丁寧な学習を進めてください。
年間の計画の立て方
現役生(高3生)向けのスケジュールには、国公立志望を前提としたものを書きました。逆に本記事の浪人生向けのスケジュールには、私立専願を前提としたものを書いていきます(国公立志望の浪人生の方は、現役生向けの記事もご参照ください)。この1年でどこかの私立医学部への合格を目指すのであれば、以下が理想的なスケジュールの一例となります。
※ 塾・予備校に通っていることを想定します。進度は一年間で全範囲を1周、または2周(半年で1周)が一般的です。京都医塾浪人生科では、年度当初に相当の学力がない限り、半年で1周の進度では理解が中途半端になると考えており、一年かけてじっくりと全範囲を1周しています。以下のモデルケースでも、1年で全範囲1周型の塾・予備校に通っていることを想定します。
塾・予備校 | 自分の勉強 | |
4・5月 | 力学 | 力学基礎固め+入試演習 →力学は物理すべての要です。可能な限り丁寧に進めましょう。力学の理解の程度は、他分野の理解にも大きく影響します。 |
6月 | 熱力学・波動 | 熱力学・波動基礎固め+入試演習 |
7月 | 電磁気 | 熱力学・波動基礎固め+入試演習 →熱力学や波動は力学や電磁気に比べてボリュームが小さいので、塾・予備校では早く進みがちです。しかし、自分の勉強は潤沢に取らなければ点につながらないので、焦らずじっくり進めましょう。夏休み前まで勉強を引っ張ってよいと思います。 |
夏休み | 電磁気 | 電磁気基礎固め+入試演習 →塾・予備校によっては講習や特別講座が重なり、自分の勉強を進めにくくなります。必ずスケジュールを書き出してスキマ時間を見つけ、自分の勉強時間を捻出しましょう。 |
9月~11月 | 電磁気・原子物理 | 電磁気・原子物理基礎固め+入試演習 →電磁気は完成までに時間がかかります。夏で着手が早い分だけ、この時期の勉強に余裕が出てきます。 |
12月 | 総合演習・過去問演習 | 全分野入試演習+過去問演習 →あまりにも早い時期から過去問演習をする必要はありません。ここまでの勉強で確かな学力を身に付けられているならば、12月からでも十分に間に合います。 |
1月 | (過去問演習) | 過去問演習+最終チェック →早い大学は、1月中旬すぎから入試が始まりますが、後期まで考えれば、非常に受験期間が長いのが私立医学部受験の特徴です。解けなかった問題をその都度チェックし、次の試験に向けて気持ちを切り替えていきましょう。 |
2・3月 | (過去問演習) | 過去問演習+最終チェック |
つまずきやすいポイント
多くの浪人生が陥りがちな誤った勉強は、塾・予備校で先生の講義を聞くだけで満足してしまうというものです。「ああ、この先生の説明わかりやすいな」、「なるほど、こう解けばよいのか」と思って勉強を終えてしまうと、折角得られた理解も定着しません。必ず自分で手を動かしながら授業を振り返り、さらに類題を解くことでその理解を確かめてください。また、基礎的な問題を軽視する浪人生も、一定数見受けられます。しかし、学校で配布されるような最も基礎的な問題集である教科書傍用問題集を1冊完璧にすれば、本当は十分に入試で戦えることは、我々指導者は知っています(もちろん合格を確信するレベルに到達できる教材ではありませんが、戦えるレベルにまで到達することは間違いありません)。学力に伸び悩みを感じるときこそ、基礎に立ち返るという方針を忘れないでください。