京都医塾国語科では、週に1回『社説集』として、生徒に新聞社説記事を紹介しています。
今回は、『社説集』2022年11月まとめの②になります。➀で紹介した記事から、医学部受験生必見の記事を取り上げ、紹介したいと思います。
618-6.梅毒1万人超え 日常の中に潜む病として/2022/11/07 信濃毎日新聞
本文
性感染症である梅毒の今年の感染者数が、累計1万人を超えた。国立感染症研究所が1999年に調査を現在の方法にしてから、初の事態である。
長野県内の感染者数も10月下旬時点で累計50人に達している。昨年同時期と比べて4割増だ。
感染研のデータによると、感染者は東京都、大阪府、愛知県など都市部に多い。若い世代、とりわけ20代女性の感染が際立って多いのが、気にかかる。
さらに直近6カ月以内の性風俗産業の従事歴などの調査から、性産業を利用したり、そこで働いたりしている人たち以外にも感染が広がっていることが分かる。梅毒を「特定の業界の人の病」などと捉えては、現実を見誤る。
今は交流サイト(SNS)やマッチングアプリで、見知らぬ人とも簡単に出会える。日常生活の中で性的接触があれば、梅毒は誰もがかかる可能性がある。早期に抗菌薬で治療すれば、完治できる。予防と検査、治療に力を入れ、感染拡大に歯止めをかけたい。
618-6.梅毒1万人超え 日常の中に潜む病として/2022/11/07 信濃毎日新聞
キーワード
- 秦佐八郎
- サルバルサン
解説
梅毒は梅毒トレポネ−マ(学名:Treponema pallidum)による細菌性の性感染症で、世界中に広くみられる。梅毒は ”The Great Imitator (模倣の名人)” と呼ばれるように、全身に多彩な臨床症状をきたす可能性があり、適切な抗菌薬治療を受けなければ、深刻な健康上の影響が起こりうる。・・・国立感染症学研究HPより引用
感染症は世界史に大きな影響を与えます。中世ヨーロッパで「黒死病」と呼ばれ恐れられたペストは、当時のヨーロッパ人口の1/3にあたる犠牲を出したといわれます。現代であればCOVID-19は、多大な人的被害とともに、グローバル社会を揺るがすほどの影響力を今なお持ち続けています。
感染症の中でも、性感染症は厄介な存在といえるでしょう。罹患したこと、治療の過程にあること自体が社会的な蔑視につながりかねないからです。
中でも、梅毒は世界史・日本史においても大変重要性が高い病であるといえるでしょう。哲学者のニーチェ、文学者のモーパッサンといった著名人は梅毒で命を落としたといわれています。また、江戸時代の日本では、「花柳病」と呼ばれる病が流行しましたが、これは梅毒や淋病のことと考えられ、吉原などの花町に規制がなかったために広まったのではないかといわれています。
ハンセン病と同じく、罹患者の相貌を変形させるという特徴も、梅毒が忌み嫌われる要因の一つでしょう。
高校で習う日本史のなかで、かなりマニアックな知識として、「秦佐八郎のサルバルサン」があります。明治後期〜大正時代にかけて、自然科学分野で優れた業績を挙げた科学者が多く現れました。秦佐八郎は、そのうちの一人として覚える人物ですね。私立文系の難関校を目指す受験生しか覚えない単語かもしれません。しかし「秦佐八郎」と「サルバルサン」、梅毒治療に大きな貢献をした大変えらい存在です。
1910年、ドイツのエールリッヒ博士のもとで、秦佐八郎は梅毒特効薬「サルバルサン」を発見しました。ヒトの細胞に影響を及ぼさずに、狙った原因菌のみを殺す、という意味でも画期的な薬でした。1943年、現在でも梅毒治療の世界的な標準治療薬として用いられる「ペニシリン」が登場するまで、梅毒の患者を救う存在となりました。
ちなみに、サルバルサンができるまでは、水銀中毒の恐れがある水銀の塗布であったり、マラリアによって高熱を出させて原因菌を殺すなどの、かなり危険を伴う治療が行われていました。ちなみにのちなみにですが、患者に発熱させて菌を殺すこの「発熱療法」、ノーベル賞を受賞しています。現在では非倫理的と言わざるをえない治療法ですが、当時は医療に大きな進歩をもたらすものとして迎えられたわけですね。20世紀における医療の急激な進歩を感じられる例ではないかと思います。
終わりに
いかがだったでしょうか。
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