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【手軽にできる演示実験】~ 高吸水性ポリマーの吸水実験 ~

【手軽にできる演示実験】~ 高吸水性ポリマーの吸水実験 ~

 京都医塾化学科の榊原です。

 このシリーズでは, 入試問題で扱われている種々の化学反応のうち、大掛かりな実験装置を必要とせず、授業内で簡単にやって見せられる演示実験を取り上げて紹介していく予定です。さて, 今回のテーマは…

 有機化学高分子の機能性高分子の出題で、古くからよく見かける高吸水性ポリマー(ポリアクリル酸ナトリウム)ですが、出題内容は単に成分と用途を結びつけるだけのものから、どのような原理で水を吸収するのかを問う問題まで様々なものが存在します。かつては国公立大学での出題(2013岡山大学、2016静岡大学、2017新潟大学、2019金沢大学等々)が中心でしたが、近年は2018自治医科大学、福岡大学、2020国際医療大学の機能性高分子の出題等々…出題例が見られます。(もっとも、始めて演示して見せたのは2004同志社大学の高分子の出題(現在も例題(ネタ)として扱っている。)が最初ですが...)

【実験の目的】

有機高分子化学の出題でしばしば見かける高吸収性高分子(ポリアクリル酸ナトリウム)が実際に水を吸収して膨らむ様を見せることによって、機能性高分子の意味を理解させ、他の機能性高分子にも興味を持ってもらい、学習の動機づけにしたい。

【準備したもの】

  ① 水※1     

  ② ポリアクリル酸ナトリウム(米粒よりも大分小さな粒状のもの※2と粉末状のもの※3

  ③ 試験管(もしくはコニカルビーカーなどでも可)※4   

  ④ ビーカー    

  ⑤ フタつきのシャーレ※5    

  ⑥ チャック付きポリ袋※6

【実験手順・結果】

1. ②の粒状、及び粉末状のポリアクリル酸ナトリウム(樹脂)をそれぞれ適量、チャック付きのポリ袋にあらかじめ入れたものを用意しておく。粒状のものについては数粒で十分。粉末状のものについてはシャーレの大きさによる。膨らんだ時にやや溢れる位にしておくと見た目のインパクトが強い。

2. 袋越しではあるが、生徒に観察してもらう。集団授業の場合は人数によっては、複数用意して回した方が効率がよいかも。この時点では決して袋を開けないようにとの指示を忘れずに。※7   

3. ③の試験管に粒状のものを、④のシャーレに粉末状のものを入れる。

4. 3. で用意したものに水を注ぐ。粒状のものは膨らむのに時間がかかるため、授業冒頭生徒の前で仕込んでおいて、授業終了間際に結果を確認する。尚、授業時間によってはこれでも十分に膨らまないため、前日あたりに仕込んでおくのもあり。十分水を吸収すると、数千倍は大袈裟だと思うが、優に数百倍位には膨らんだ一見ゼリー(氷?)状の樹脂を見せられる。

 尚、膨らんだ樹脂内はほぼ水ばかりなので当たり前だが、樹脂内外で屈折率が変わらないため、水が入っている状態だと試験管内に水しか入っていない様に見える。ビーカーを用意しておいて水を抜いて見せて初めて樹脂が姿を現すといった演出をすると良い。(触ると弾力性をもってプルンプルンと震える。当然ながら力を入れすぎると普通につぶれるので加減する事。)      

5.粉末状のものについては適量の水をシャーレのフタにでも取っておいて、生徒自身(集団授業だと希望者を募るか、自分でやるしかない)に一気に注がせる。ムクムクと膨らんだ樹脂が容器から溢れる様が観察できるように量を調節しておくと、そこそこインパクトの強い現象を見せる事ができる。膨らんだ樹脂は真っ白であたかも雪のように見え、実際触ると冷たいので冬場(クリスマス前後あたり)に実験して見せるとよいかも。

 尚、もう十年以上はレパートリーとして実験して見せているのだが、つい最近、できた人工雪(!?) でミニ雪だるまを作ろうとした女子学生に初めて出会い、「そうか、そんな事もできるのか。」と    新たな発見に年甲斐も無く感動した事がある。(使用する商品に依る? 最近手に入れた物でドーム状かまくらの模型に挑戦したのだが、樹脂同士が反発してまとまらず、上手くできなかった。)   

6. 余裕があれば、2019金沢大学の出題にあったように、水を吸収して膨らんだ樹脂に、食塩を振りかけてみるのも有り。(要するにナメクジに塩をかけるのと同じ。原理説明で浸透圧にも言及する筈なので。) 

【考察】 

  大学入試の過去問で何度も聞かれているように、吸水の原理は大きく分けて2つ。①;水に触れてナトリウムイオンNaが電離。残ったカルボキシドイオン-COOどうしは負の電荷を持ち電気的反発(斥力)によって膨らむため、さらに水を吸収できる。②;電離したNaは樹脂内に留まるため、樹脂内外で比較すると内部の濃度が高く、浸透圧でさらに水を吸収する。紙おむつ、生理用品等に利用した場合、純水に比べると吸収力が落ちてしまうのは濃度差が小さくなってしまうからで、そう考えると仕方のないこと。

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(註)

※1 何度も書いて恐縮ですが、水道水でも、ペットボトルの飲料水でももちろん可です。私は純水である事にこだわって、薬局でコンタクトレンズ洗浄用の精製水を買って使ってます。

※2 もう十年以上も前に四条河原町にあった大衆向けに理化学グッズを扱っていたお店で売っていたもので、試験管内に樹脂が入っていてゴム栓で封をした状態で手に入れました。ある事情でもうほとんど残っていないので、今でも手に入らないか折に触れて探してみてはいるのですが、現在、使い切ったらお終いの可能性大です。

※3 こちらも同じ頃手に入れたもので、愛用していた商品は既に販売中止のようですが、小中学生の自由研究用にいくつかの会社が販売しているようなので、代替品が手に入ると思います。ポリアクリル酸ナトリウムと謳っていてもゼリー状(シャーベット状)に膨らむのみで、決して雪とは呼べない代物もあるのでご注意。

※4 演示用に口径30mmの太い試験管を愛用しています。ネット通販で普通に買えます。水を吸収させて膨らませるだけなので、他の容器でも良いのですが、試験管だと膨らんだ樹脂が縦に並ぶので、本文中に書いたように、一度試験管中には水しか入っていないように見せておいて、水を抜いて出現させるデモンストレーションを行うならば、試験管を用いた方がインパクトは強いです。

※5 愛用していた商品には小型のプラスチックのシャーレが付属していましたから、そちらを長年使っています。ただ、かなり小さいので、集団授業で扱うならば少し大きめのシャーレを用いて贅沢に雪を作った方が、より強く印象に残せるのでは?

※6 商品では計量できるフタが付属しているのですが、毎回量り取っていると、結構な時間のロスになるため、予め準備しておく事にしています。重宝するのがチャック付きのポリ袋で、小型(私は百円ショップで購入したB8、A7サイズ)のものを使ってます。

※7 授業時にこぼした事が何度かあります。当時は試験管に入れたままの樹脂をイオン交換樹脂のカラムのイメージ付けに使えないかと、そのまま持ち込んでいました。

投稿者:榊原 久芳

  • 役職
    化学科講師
  • 講師歴・勤務歴
    30年
  • 出身大学
    京都大学理学部
  • 特技・資格
    吹奏楽(中高の6年間ユーフォニアムを吹いてました)、放射線取扱主任者試験合格
  • 趣味
    映画鑑賞
  • 出身地
    静岡県
  • お勧めの本
    はじめての量子化学

受験生への一言
「個々の分子の振る舞いが現象としてどう表れるのか」が理解できれば、「気体・溶液」、「化学平衡」の単元も怖くありません。まずは理論を正しく理解する事です。正しい考え方ができるようになれば、解き方の幅も広がって、一つの方法に固執する事もなくなります。ともかく「常に頭を使え」という事です。