京都医塾生物科です。
梅雨が早く明けたことで今年は暑い時期が長くなりそうですね。こういう時は冷房を使って温度管理をすることも大切ですが、健康維持のためには定期的な換気も必要。学習に集中するためには、学習以外の事柄でも気にしなくてはならないことがたくさんありますが、「自分のため」に必要なことを選別して、これらを一つ一つ丁寧にこなしていきましょう。
今月は、
・PCR法の徹底解説
・8月の学習アドバイス
をお届けします!
目次
① PCR法の徹底解説!
現役生にとっては、まとまった時間を取って苦手な分野の克服に取り組むことができるのは夏休みが最後の機会といっても過言ではないでしょう。生物は分野ごとに得意苦手が大きく分かれやすい科目ですが、その中でもバイオテクノロジーの分野については出題されると分かっていても解き切れないという受験生が多いのではないでしょうか。今回は、バイオテクノロジー分野の中から、特に出題頻度が高くなってきているPCR法について徹底的に解説します。
(ⅰ)基本を解説
PCR法(Polymerase chain reaction)は、日本語ではポリメラーゼ連鎖反応法と呼び、特定のDNA領域を生物の細胞外で大量に増幅する実験的手法を指します。遺伝子組換え実験などでは、目的の遺伝子を含むDNA断片が大量に必要となることから、同じ塩基配列をもつDNA断片を大量に増幅するクローニングという過程が重要でした。クローニングベクターと呼ばれるプラスミドやファージを利用して細菌に目的の遺伝子を含むDNA断片を取りこませ、この細菌を増殖することで目的のDNA断片の数を増やす、という方法もあるのですが、この方法では生物の体内での複製速度や生物自体の増殖速度が関係してくるため、必要な量を確保するためには一定以上の時間がかかっていました。これをより短時間で安定的に増幅できるようにしたのがPCR法ということになります。
実験に必要となるのは、増幅したい配列を含む鋳型DNAと増幅したい配列を挟む形で設定されたプライマーと呼ばれる短いDNA断片が2種類。そして新生DNA鎖の材料となる各種ヌクレオチドと合成酵素であるDNAポリメラーゼです。本来細胞内で行われる複製の過程では、鋳型となるDNAは複製起点からDNAヘリカーゼによって一本鎖に解離されることで複製が始まりますが、PCR法ではDNAヘリカーゼを用いません。複製起点近辺に目的の塩基配列が含まれているとは限らないためです。代わりに、細胞内では絶対に出来ない「高温下で水素結合を切る」という方法で鋳型DNAを解離しています。タンパク質からなる酵素であるDNAポリメラーゼは、この高温にする過程で変性・失活してしまう危険性が高いため、PCR法においては熱水噴出孔近辺に生息する細菌がもつ耐熱性の酵素を使っています。鋳型DNAが一本鎖になった後、温度を下げていくとプライマーが鋳型DNA鎖の相補的な配列部分と結合します。この部分を起点にしてDNAポリメラーゼが新生鎖を合成していきます。これらを繰り返すことで特定の領域のDNA鎖を大量に増幅することができるわけです。
(ⅱ)つまづきやすいポイント
PCR法の手順や、途中の温度変化などは覚えていても、「この配列を増幅するために用いるプライマーの塩基配列はどれか」といった実験の設定段階を理解しているかを確認する問題や、「プライマーに挟まれた領域のみを含むDNA断片はnサイクル後何本生じるか」といった実験結果を問われる問題になると途端に躓いてしまう、という受験生が多いのではないでしょうか。
プライマー設計の問題では、鋳型となるDNA鎖とプライマーの方向性に注意することが必要です。プライマーを起点にして、DNAは3’方向へ伸長していくことになりますので、「増幅したい塩基配列」の方向に新生鎖が伸長するように設定しなくてはなりません。問題文で与えられる鋳型DNAの塩基配列は、多くの場合一本鎖の形で示されていますが、実際には相補鎖も存在しているので、見えていない側の鎖と結合するプライマーについても設計しなくてはいけないことに注意する必要があります。
増幅の結果生じるDNA断片の長さや本数を考える問題については、教科書や図説に示されている図を参考にして、3サイクル目までの過程を自分の手で図示してみることをお勧めします。そうすると、DNA鎖の長さが決まるしくみが分かってくるからです。プライマーが結合した部分から新生鎖が伸長していくと、プライマーより5’側の配列は合成されないことが分かります。さらに鋳型となる鎖が途切れると、その先の配列が新たに合成されることは無いため、短い断片が生じることになります。どんな鎖が鋳型となった時に、どのような長さのDNA断片が新たに合成されることになるのか、を実際に書いてみることで実感すると、計算の考え方がスムーズに理解できるようになりますよ。
(ⅲ)苦手を克服する鍵は複製の過程を正しく理解すること!
PCR法とは、人工的に複製を繰り返している、という実験ですから、基本的には細胞内での複製と同様の過程に従って反応が進んでいます。プライマーが必要な理由やDNAの方向性との関係などは、複製のしくみを確認することで理解しやすくなりますし、細胞内と異なる部分に着目することでPCR法の特殊性に対する理解も進みます。何となく手順と計算式だけをぼんやりと覚えているだけ、という人は、この機会に複製のしくみについて改めて詳しく学び直しておくようにしましょう。
② 8月の勉強のポイント・学習アドバイス(8月にすること)
①の方でも書いたように、夏期は苦手分野を克服するためにまとまった時間を費やすことができる貴重な期間です。ここまで基礎事項を一通り見直してきた中で、自分の得意不得意、あるいは好き嫌い、の傾向が分かってきたことと思います。苦手な分野については、ごく基本的な事項まで立ち返って、内容を正しく理解しているかどうかを丁寧に確認していきましょう。分かっているつもりでいたのに実は根本的に勘違いしていた、といった場合もよくありますので、特に自信がない分野については学校の先生や塾の先生などに改めて内容を確認してもらったりしてもよいですね。
基本事項の確認が終わってからは、いよいよ問題の演習にも積極的に取り組んでいくことになります。とはいえ、ここですぐに入試問題のレベルを解いてみるのでは、これまで確認してきた基礎事項が定着しているかどうかの確認にはなりません。まずは教科書併用教材(学校で購入して使用している問題集のことです)の基本レベルの問題から取り組んでいきましょう。このレベルで迷うことなくスムーズに解答できるようになっているかどうかが次のステップに進んでよいかどうかを量る一つの目安になります。
この時、選択肢が与えられている形式の問題だけでなく、用語等を記入する形式の問題にも必ず取り組みましょう。「マーク式の問題を出す大学しか受験しないつもりだから、文字を書く練習は必要ないよね」ということはありません。他に何の手がかりも無い状態からでも対応する用語を解答できること、で知識が定着しているかどうかを確認していく必要があるからです。
あやふやな部分が残っている分野が見つかったら、即座に基礎知識の確認に戻ります。その後再び同じ問題に着手して、できるようになっていることを確認します。これを全分野について何度も繰り返して知識を確実に定着させていきましょう。
まとめ
夏休みは長い時間があるように見えますが、決して余裕があるわけではありません。つい欲張って「やりたいこと」をたくさんピックアップしてしまいそうになりますが、多すぎて計画倒れになってしまうという受験生も毎年たくさん(本当にたくさん!)います。「やるべきこと」に優先順位をつけて、限りある時間を有効に活用できるようにしましょう。この時期に知識の足場を盤石なものにしておくことが秋以降の得点力の飛躍に繋がりますので、丁寧に穴を埋めることを心がけて学習に取り組んでください。
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