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ベクトルの外積と平行四辺形の面積

ベクトルの外積と平行四辺形の面積

 高校数学ではベクトルの「内積」という計算を習いますが、「『内積』と言うからには『外積』という計算もあるのではないか」と疑問に思ったことはないでしょうか。実は、あります。

 2つの空間ベクトル
  \( \vec{a}=(a_1,a_2,a_3), \vec{b}=(b_1,b_2,b_3) \)
に対して、
  \( \vec{h}=({a_2}{b_3}-{a_3}{b_2},{a_3}{b_1}-{a_1}{b_3},{a_1}{b_2}-{a_2}{b_1}) \)
とします。また、
 \(\vec{a}=\vec{\mathrm{OA}}, \vec{b}=\vec{\mathrm{OB}}, \vec{a}+\vec{b}=\vec{\mathrm{OD}}\)
となる点\(\mathrm{O,A,B,D}\)を取ります。
 \(\vec{a}・\vec{h}= \vec{b}・\vec{h}=0\)となっていることから、この\(\vec{h}\)は\(\vec{a}\)と\(\vec{b}\)が張る平行四辺形\(\mathrm{OADB}\)に垂直であることがわかります。さらに言えば、\(\vec{h}\)の向きは\(\mathrm{A}\)から\(\mathrm{B}\)に右ねじを回すときに進む向きであり、\(\vec{h}\)の大きさ\(|\vec{h}|\)は、この平行四辺形\(\mathrm{OADB}\)の面積と等しいことが知られています。すなわち、平行四辺形\(\mathrm{OADB}\)の面積を\(S\)とすると、
 \(S=\sqrt{({a_2}{b_3}-{a_3}{b_2})^2+({a_3}{b_1}-{a_1}{b_3})^2+({a_1}{b_2}-{a_2}{b_1})^2}\)
となります。
 この\(\vec{h}\)を\(\vec{a}\)と\(\vec{b}\)の外積といい、
 \(\vec{h}=\vec{a}×\vec{b}\)
と表します。

 ここで、
内積\(\vec{a}・\vec{b}={a_1}{b_1}+{a_2}{b_2}+{a_3}{b_3}\)
と、
外積\( \vec{a}×\vec{b}=({a_2}{b_3}-{a_3}{b_2},{a_3}{b_1}-{a_1}{b_3},{a_1}{b_2}-{a_2}{b_1}) \)
は、まったくの別物であり、しっかりと区別しなければいけません。内積はスカラー(ベクトルではない単なる数)、外積はベクトルです。また、内積は2次元ベクトルでも3次元ベクトルでも定義されますが、外積は3次元ベクトルに対してのみ定義されます。ベクトルの内積の「・」を省略してはいけないのは、外積と区別するためでもあるのでしょう。

 ベクトルの外積は高校数学では定義されていませんから、記述式答案で外積を用いることには慎重になるべきですが、少なくとも検算には使えますし、答えの数値のみ書く形式の試験ならば、大幅な時間短縮も望めます。

 たとえば、成分を与えられた2つの空間ベクトル\( \vec{a}\)と\( \vec{b}\)の両方に直交するベクトルとしては外積\( \vec{a}×\vec{b}\)(の0でない定数倍)が該当します。これなら、いちいち連立方程式を解かなくてもよいので速いですね。

 あるいは、各頂点の座標(あるいは位置ベクトル)を与えられた三角形や平行四辺形の面積を求めることもできます。三角形なら先ほどの平行四辺形の面積\(S\)の\(\frac{1}{2}\)倍です。
 3次元空間ではなく平面上の三角形であったとしても、
2次元ベクトル\( \vec{a}=(a_1,a_2), \vec{b}=(b_1,b_2) \)
を、
3次元ベクトル\( \vec{a}=(a_1,a_2,0), \vec{b}=(b_1,b_2,0) \)
と同一視することにすれば、3点\(\mathrm{O}(0,0), \mathrm{A}(a_1,a_2),\mathrm{B}(b_1,b_2)\)を頂点とする三角形\(\mathrm{OAB}\)の面積\(T\)は、
 \(T=\frac{1}{2}\sqrt{({a_2}・0-0・{b_2})^2+(0・{b_1}-{a_1}・0)^2+({a_1}{b_2}-{a_2}{b_1})^2}\)
  \(=\frac{1}{2}\sqrt{({a_1}{b_2}-{a_2}{b_1})^2}\)
  \(=\frac{1}{2}|{a_1}{b_2}-{a_2}{b_1}|\)
と求まることがわかります。これは、公式として覚えている人も多いでしょう。

 さらには、内積の計算と組み合わせることによって、各頂点の座標(あるいは位置ベクトル)を与えられた四面体や平行六面体の体積も求めることができます。四面体\(\mathrm{OABC}\)について、
 \( \vec{\mathrm{OA}}=\vec{a},  \vec{\mathrm{OB}}=\vec{b},  \vec{\mathrm{OC}}=\vec{c} \)
とし、さらに、
 \(\vec{\mathrm{OD}}=\vec{a}+\vec{b},  \vec{\mathrm{OE}}=\vec{b}+\vec{c},  \vec{\mathrm{OF}}=\vec{c}+\vec{a} , \vec{\mathrm{OG}}=\vec{a}+\vec{b}+\vec{c} \)
を満たす点\(\mathrm{D,E,F,G}\)を取ると、六面体\(\mathrm{OADB-CFGE}\)は平行六面体となります。このとき、平行六面体\(\mathrm{OADB-CFGE}\)の体積を\(\mathrm{V}\)、四面体\(\mathrm{OABC}\)の体積を\(\mathrm{W}\)とすると、
 \(\mathrm{V}=|(\vec{a}×\vec{b})・\vec{c}|\)
 \(\mathrm{W}=\frac{1}{6}\mathrm{V}=\frac{1}{6}|(\vec{a}×\vec{b})・\vec{c}|\)
となります。時間の余裕のある人は、その理由を考えてみても面白いでしょう。

投稿者:田中 和宏

  • 役職
    数学科講師
  • 講師歴・勤務歴
    8年
  • 出身大学
    京都大学総合人間学部
  • 特技・資格
    勉強
  • 趣味
    囲碁、テニス、カラオケ
  • 出身地
    大阪府
  • お勧めの本
    一生懸命 ふまじめ 囲碁トッププロの生き方

受験生への一言
どうせやらなければいけないことなら、明るく楽しく。数学から(もちろん他の教科からも)たくさんのことを学んでいきましょう。