京都医塾の生物科廣瀬です。
受験生にとって「どうしても興味が持てなくて…」と勉強に苦しみがちな分野について、身近に感じられそうな切り口を探して色々やってみています。
今回は、京都市動物園に数多く飼育されている霊長類を通して、「ヒトへの進化」の際に登場する身体上の特徴について見ていこうと思います。
霊長類(分類学的には「霊長目」といいます)は哺乳綱に属する目の1つで、サルの仲間が全て含まれています。高校生物の進化分野では、新生代の初頭に起きた哺乳類の多様化の中で、食虫目(モグラなどの仲間)から出現した分類群、として登場します。樹上生活に適応したことで、特有の形質を獲得したことが知られています。
適応の過程で獲得した形質の中でも、特に重要なのが「拇指対向性」と「両眼視」の2つ。
拇指対向性は、親指が他の指と向かい合う形になっていることです。この構造により、枝などをしっかりとつかむことができます。また、この過程で指先の爪が平爪に変化し、握力を上げるのに役立ったとされています。
両眼視は、顔の正面に眼が並んで配置されることで、両眼の視野が重なり、距離感を正確に把握できるようになったというものです。高い所で枝から枝へ飛び移る際に役立った形質とされています。
今回は霊長類の中でも古くに分岐したグループである「原猿類」に属する種を見ていきます。
原猿類の動物たち
原猿類の中でも古い分類群とされているのがキツネザルの仲間です。写真はワオキツネザル(これは旭山動物園で撮ったものです)。前足は少し分かりづらいですが、後足をよく見てもらうと、親指だけが他の4本の指とは違う方向に広がっているのが分かるかと思います。
同じく古くに分岐した分類群の1つにロリスの仲間がいます。写真はスローロリス。
この写真を撮った時は、ちょうどご飯に突進している時だったので、「スローってなんだっけ…?」と思う速度で移動していましたが…。前足の親指が体の内側に向かって広がっているのが分かると思います。一方で人差し指は短いですね。
もう1つ原猿類から、ガラゴの仲間を。写真はショウガラゴ(ブッシュベイビーともいいますね)。
跳躍が激しくて、なかなかピントが合った写真がありませんでした…。この種は目が大きくて顔の正面に位置し、両眼視をしている、という特徴が非常に分かりやすいですね。
このように、現在の霊長類全体で共有している形質が古い分類群の時点で既に獲得されている、ということが実物からよく分かります。ただ、尾が長い(これを枝に巻き付けて身体を支えることができます)など、ヒトと比較すると異なる特徴が多く見られることも確かです。
では、同じ霊長類でもヒトに近い種ではどんな特徴が見られるようになるのか、という点については後編で。
おまけ
同じ樹上生活でも、霊長類とは異なり、かぎ爪を引っかける形で適応している種もいます。
ということで、昔京都市動物園にいたナマケモノをどうぞ。指先見えるかな…?