数学では「a÷0という計算はできない(考えない)」とされています。
この理由について、例えば小中学校であれば何かの数を0で割ると、その答えが無限大になってしまう、というような説明がされることもあります。これは直感的にはわかりやすい説明ですし、小学生などに納得させる方便としては悪くないと、個人的には思います。
しかしながら、数学的にみると、やはり完全に正しいとは言えない説明であることも確かです。
今回は、そんな「0で割れない」理由について、簡単に話していきたいと思います。
0 で割れない2つの理由
実は、 a÷0 ができない(考えない)理由は2つあります。
大まかにまとめると、
・ 1÷0 の答え(商)は、そもそも存在しない
・ 0÷0 の答え(商)は、それが存在すると考えてしまうと数学的に面倒なことになる
ということになります。
これら2パターンの場合について、なぜ ÷0を考えないのかを考えてみることにしましょう。
まずは、そもそも除法とはどのような計算なのか――あるいは、商(除法の答え)とは何かを定めるところからスタートします。
除法を乗法の式で表す
除法は、乗法(かけ算)の逆計算と考えることができます。
a÷b という計算があったとき、その商とは、cb=a となるような c のことを指します。
「除法ができる」とは、このような c が、
条件①「存在する」
条件②「1つだけに定まる」
の2つの条件を(両方とも)満たすことをいいます。
例えば、6÷2 の商は、2c=6 となるような c のことになります。
このような c は当然存在し(条件①)、c に当てはまる数は1つしかありません(条件②)。
2つの条件を満たしますので、この除法は計算可能で 6÷2=3 となります。
1÷0はどうなる?
この要領で、1÷0 の商を考えてみましょう。
1÷0 の商は、0c=1 となるような c の値となります。このような数 c は存在しません。
c にどのような数が入ろうとも、0c=0 となってしまいます。
よって、この計算は条件①を満たしません。
1÷0 の商となり得る数はそもそも存在しないわけですから、 1÷0 はできないという結論になります。
ちなみに、1÷0 に限らず 2÷0 や 3÷0 などについても、同様の理由で商は存在しません。
0÷0はどうなる?
0÷0 の商はどうでしょう。
ここまでの考え方に則ると、0÷0 の商は、
0c=0 となるような c の値
となります。
「おや?」と思った人、正解です。そう、このような c は存在します。
例えば、0・1=0 なので、c=1 のとき、確かにこの式は成り立ちます。
それでは、0÷0 の計算は「できる」とみなしてもいいのでしょうか。
答えは、もちろん否です。
この計算は、除法が成り立つための条件①「c が存在する」を確かに満たしますが、
一方で、条件②「c はただ一つだけ存在する」を満たさないからです。
なぜ1つだけでなくてはならないのか
0÷0 の商が一つに定められないと、どのような不都合が起こるのかを考えてみましょう。
実際に、
c=1 のとき、0・1=0
c=2 のとき、0・2=0
となるので、もし 0÷0 が計算できるとした場合、
0÷0=1
0÷0=2
のどちらも正しい計算であるということになります。
すると、上記2つの結果から、
0÷0=1=2
が導けてしまいます。
1, 2 だけでなく、c はいかなる数も取り得るため、
もしも 0÷0 という計算を認めてしまうと、そこからあらゆる数が等しいことを示せてしまいます。
このような理由から、やはり 0÷0 という計算はできない(考えない)とするわけです。
試験でも「割る数≠0」を意識しよう
入試においても、÷0とならないように(分母が0とならないように)数式の処理を行う場面は、数多く存在します。このような条件をよく忘れてしまう、という生徒は、ただの作業として数式を処理するのではなく、原理原則を理解し、自分がいま行っている操作の意味を改めて考えなおすことで、その感じ方も変わってくるのではないでしょうか。