京都医塾数学科です。
このページでは「京都大学医学部の数学」についての過去問分析コメントを紹介します。
・“医学部受験に興味がある”という方
・“京都大学医学部”の受験を考えている方
・“京都大学医学部の数学がどのような問題か知りたい”という方
におススメの記事となりますので、興味のある方はご一読ください。
目次
概要
【形式・制限時間・配点】2022年度(最新の問題より)
形式: 記述式
制限時間:150分
配点:250点(素点200点を換算 筆記試験の総得点は1250点(共通テスト250点+2次試験1000点))
出題の傾向と特徴(7年分)
毎年恒例の出題単元
過去7回で、「微分積分」、「場合の数と確率」、「整数の性質」の単元からは毎回出題があり、毎年恒例と言えるでしょう。
「微分積分」は接線の方程式や関数の増減、面積や体積に絡む問題のほか、手薄になりがちな曲線の長さを求める問題の出題もあり、要注意です。
「場合の数と確率」は「数列」との融合問題が多く、こちらの対策も重要となります。
「整数の性質」は特有の癖があり、過去問演習が大きなカギを握ります。また、\(n\)進法がらみの問題も散見されるので注意が必要です。
頻出の出題単元
ほかにも、「三角関数」、「数列」、「極限」、「ベクトル」、「複素数平面」からの出題も多くみられます。
「三角関数」は図形と絡めての出題も単体での出題もあります。
「ベクトル」、「複素数平面」といった図形がらみの問題では、座標を設定することで解決の筋道が見えてくる問題も多く、注意を要します。
「数列」は先述のとおり「場合の数と確率」との融合問題も多くみられます。
「極限」は丁寧な誘導が与えられていることは少なく、試行錯誤することを覚悟しなければなりません。
また、例年1~3題ほどの証明問題も出題されます。表面上はただの求値問題でも、その答えに至るまでの過程を記述する必要があり、自分の考えを論理立てて説明する能力が問われています。
制限時間に対する問題量
例年、範囲も難度も幅広い問題が6題出題されています。近年は1題が複数の独立した小問に分かれていることもありますが、誘導としての小問は少ない傾向にあります。誘導に頼らず自力で解答を一から組み立てる必要があり、たとえやや易レベルの問題でも構想を練るのにそれなりの時間がかかることを考えると、そこまで余裕のある時間設定ではありません。難レベルの問題になると、たとえ医学部医学科志望者であったとしても、時間の限られた入試本番では解ききれないことも多々あるでしょう。
2022年度(最新の過去問)の分析
ここまでは近年の傾向を見てきましたが、ここではさらに踏み込んで、最新の入試問題を具体的に分析したいと思います。
※以下、過去問をお手元にご覧になるのが理想的ですが、過去問がなくても問題なくお読み頂けます。
【第1問 対数・不等式の証明】(やや易)
\(0.301<\log_{10}{2}<0.3011\)を利用して\(5.4<\log_{4}{2022}<5.5\)を示すという非常にシンプルな問題です。
\(\log_{10}{2}\)の範囲が与えられていますから、\(\log_{10}{5}=1-\log_{10}{2}\)と合わせて考えることで、\(\log_{10}{5}\)の範囲もわかります。このことから、素因数に\(2\)や\(5\)を含む自然数で\(2022\)を評価することを考えます。今回の場合、\(2000=2・10^3, 2048=2^{11}\)ですから、\(2・10^3<2022<2^{11}\)と評価できます。各辺の4を底とする対数を取ると、\(\displaystyle\frac{1}{2}+3\log_{4}{10}<\log_{4}{2022}<\frac{11}{2}\)であり、\((最左辺)=0.5+\displaystyle\frac{3}{2\log_{10}{2}}>0.5+\frac{3}{2・0.3011}=0.5+4.98…>5.4,\) \((最右辺)=5.5\)ですから、題意を示せました。
他大学では「\(\log_{10}{2}=0.3010\)とする」などと、常用対数の’近似値’を与えてくることが多いのに対して、京都大学の数学では、今回のように、常用対数の値の’範囲’を与えてくることが多々あります。このような場合、勝手に\(\log_{10}{2}=0.3010\)などとしてはいけません。これだけのことでも、問題の難度が上がります。
とはいえ、京都大学の入試問題としては易しい部類であり、是非とも得点したい問題です。
≪2022年度の目標値≫
数学を得点源にしたい受験生…完答
他教科を得点源にしたい受験生…完答
【第2問 確率】(やや易)
箱の中に入った\(1\)から\(n\)までの数字が書かれた\(n\)枚の札の中から同時に\(3\)枚取り出し、取り出した札の番号を\(X,Y,Z (X<Y<Z)\)とするとき、\(Y-X≧2かつZ-Y≧2\)となる確率を求める問題です(ただし\(n≧5\))。
’真ん中’の数\(Y\)を\(Y=k\)などと固定し、対応する\(X,Z\)を列挙し数え上げる、というのが自然で思いつきやすい解法でしょうか。あるいは、\(X,Y,Z\)が2つ以上離れた整数であることから、\(1≦X<Y-1<Z-2≦n-2\)であることに気づけば、求める確率を\(\displaystyle\frac{{}_{n-2}\mathrm{C}_3}{{}_n\mathrm{C}_3}=\frac{(n-3)(n-4)}{n(n-1)}\)と、少ない計算量で求めることもできます。
いずれにせよ、これも是非とも完答したい問題です。
≪2022年度の目標値≫
数学を得点源にしたい受験生…完答
他教科を得点源にしたい受験生…完答
【第3問 整数の性質】(標準)
\(n\)を自然数として、\(n^2+2,n^4+2,n^6+2\)の最大公約数\(A_n\)を求める問題です。
以下、この記事内では、2整数\(a,b\)の最大公約数を\((a,b)\)と表現することにします。
最大公約数といえば、ユークリッドの互除法を連想したいところです。すなわち、「4つの整数\(a,b,q,r\)について\(a=bq+r\)が成り立つとき、\((a,b)=(b,r)\)である」…(☆)という事実を利用します。このとき、\(0≦r<|b|\)であれば、「\(a\)を\(b\)で割った商は\(q\)、余りは\(r\)である」と言えますが、\(r\)がこの範囲になくとも(☆)自体は成立します。
まずは、\(n^2+2\)と\(n^4+2\)について、\(n^4+2=(n^2+2)(n^2-2)+6\)と、整数ならぬ整式(多項式)の要領で割り算します。ここから、\((n^2+2,n^4+2)=(n^2+2,6)\)となり、\((n^2+2,n^4+2)\)の値は\(1,2,3,6\)のいずれかに絞り込まれます。あとは、\(n\)を\(6\)で割った余りに着目して場合分けして、\(n^6+2\)についても調べれば解決します。
文字式に対して互除法を使うことに慣れていないと手を出しづらかったかもしれませんが、決して無理な問題ではなく、これも完答を目指したいところです。
≪2022年度の目標値≫
数学を得点源にしたい受験生…完答
他教科を得点源にしたい受験生…完答
【第4問 空間ベクトルor図形の性質】(やや易)
辺の長さを具体的に与えられた四面体に関する問題です。ベクトルの問題として解けば計算・記述量が増える代わりに方針に迷わずにすみます。図形の性質を用いて解くと、記述も計算も少なくてすみます。
(1)は四面体\(\mathrm{OABC}\)の内部を動く線分\(\mathrm{PG}\)と辺\(\mathrm{OA}\)が垂直であることを示す問題です。ベクトルの問題として解くならば、\(\overrightarrow{\mathrm{PG}}・\overrightarrow{\mathrm{OA}}=0\)を計算によって示します。図形の性質の問題として解くならば、\(\mathrm{BM}⊥\mathrm{OA},\mathrm{CM}⊥\mathrm{OA}\)より\(平面\mathrm{BCM}⊥\mathrm{OA}\)であるから\(\mathrm{PG}⊥\mathrm{OA}\)という流れで示すことになります。
(2)は線分\(\mathrm{PG}\)の長さの最小値を求める問題です。ベクトルの問題として解くなら(1)の誘導は必要なく、やや繁雑な計算にはなりますが、方針で迷うことはないでしょう。図形の性質の問題として解く場合、(1)の誘導が効いてきます。
ベクトルの問題として考えれば計算がやや繁雑なだけの問題であり、やはり完答を目指したいです。
≪2022年度の目標値≫
数学を得点源にしたい受験生…完答
他教科を得点源にしたい受験生…完答
【第5問 微積分】(標準)
(1)は図形の面積を積分によって求める問題。\(y=\cos^3{x}(0≦x≦\displaystyle\frac{\pi}{2})\)が単調減少であることはすぐわかるうえに、積分計算も基本的なので、この問題は絶対に落としてはいけません。
(2)は長方形の面積\(f(t)=t\cos^3{t}(0<t<\displaystyle\frac{\pi}{2})\)の最大値についての問題。微分して増減を調べることになりますが、導関数\(f'(t)\)の符号が切り替わる瞬間の\(t\)の値\(\alpha\)は、その大きさを「\(\alpha=\displaystyle\frac{\cos{\alpha}}{3\sin{\alpha}}\)を満たす鋭角」と表現することくらいしかできませんが、そのような\(\alpha\)がたしかにただ一つ存在することはわかります。\(\alpha\)の正体がいまいちわかった気になれないまま議論が進むので少し気持ち悪いかもしれませんが、ここまでは頑張って得点したいところです。
(3)は(2)までの結果を踏まえたうえでの不等式の証明問題です。(2)の\(\alpha>\displaystyle\frac{\pi}{6}\)に自力で気づかなければならず、思いつかなければあきらめるほかないでしょう。
≪2022年度の目標値≫
数学を得点源にしたい受験生…完答
他教科を得点源にしたい受験生…(1)(2)
【第6問 数列】(やや難)
ひとことで言ってしまえば数列の一般項を求めるだけの問題ではあるのですが、最後を締めくくる問題にふさわしく、生易しくはありません。
まず、漸化式中に三角関数が含まれることから、数列\(\{x_n\}\)にはなんらかの周期性があることが期待されます。実際、\(x_1,x_2,x_3,…\)の値を具体的に求めて観察してみると、「\(m=0,1,2,…\)に対して、\(x_{3m+1},x_{3m+2},x_{3m+3}\)を3で割った余りがそれぞれ\(0,0,1\)である」ことが予想できます。これを、数学的帰納法で証明します。すると、数列\(\{x_n\}\)の漸化式を、三角関数を含まないよりシンプルな形に書き直すことができます。ここから、一般項を求めたい数列\(\{x_n-y_n\}\)の階差数列の一般項が\(n\)になることに気づければあとは速いですが、気づけなければ、\(n\)を\(3\)で割った余りで分類して\(x_n,y_n\)を求めて計算することになるでしょう。
見慣れない漸化式に臆せず実験して規則性を見出し、それを数学的帰納法で丁寧に証明しなければならず、また、最後の問題ということもあって、手が回らなかった受験生も多かったことでしょう。比較的解きやすかったほかの問題を手際よく片付け、この問題に費やす時間を作れたかどうかもカギを握ります。
≪2022年度の目標値≫
数学を得点源にしたい受験生…完答
他教科を得点源にしたい受験生…規則性に気づき、予想するところまで
【総評】
全体として、難関大としては計算処理は軽めで、昨年度に比べて解きやすかったとは言えますが、証明問題や多少の試行錯誤を要する問題が多く、研究者養成に重きを置く京都大学らしさを感じさせるセットでした。また、おおむね易から難の順番に問題が配置され、受験生の純粋な数学力を測ろうとする出題者の意図を感じさせます。
まとめ
本学の数学は東京大学や東京工業大学、大阪大学といったほかの難関大に比べて、要求される計算処理量は少ない傾向にはありますが、だからこそ基本的な計算は速く正確にこなせるよう練習しておく必要があります。また、「論証の京大」と言われるだけあって、証明問題が多く、論理のおかしい答案に対しては厳しい採点がなされると言われています。信用のおける指導者の答案添削指導を受け、易しい問題であっても自分の思考過程を正確に表現できるように練習しておきましょう。また、教科書に載っていることはすべて出題されうると考え、特定の単元にヤマを張ったりせず、ムラのない学習を心がけましょう。
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