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2022年度東京慈恵会医科大学医学部の化学過去問対策・分析

2022年度東京慈恵会医科大学医学部の化学過去問対策・分析

京都医塾化学科です。
このページでは「東京慈恵会医科大学の化学」についての過去問分析コメントを紹介します。

・“医学部受験に興味がある”という方
・“東京慈恵会医科大学”の受験を考えている方
・“東京慈恵会医科大学の化学がどのような問題か知りたい”という方

にオススメの記事となりますので、興味のある方はご一読ください。

概要

【形式・制限時間・配点】2022年度 
形式: 記述・論述式(一部選択式)
制限時間:理科2科目で120分
配点:100点

出題の傾向と特徴

毎年、大問で2題は理論化学から出題されるものと覚悟して下さい。これらの問題も純粋な理論化学の問題というよりは、無機化学、有機化学の特定のテーマについて、理論化学を利用して内容を掘り下げる等、総合問題の体裁になっている事が多いです。また、無機化学や有機化学に分類される問題も、少なからず理論化学的内容を含んでおり、大抵理論化学の計算問題を伴う形で出題されています。

【毎年恒例の出題単元】

 毎年必ず出題される単元は無く、全範囲から偏りなく出題されると考えた方が良いでしょう。

【頻出の出題単元】

 理論化学の分野で周期表(特に21番元素以降遷移元素を含めての電子配置)、酸化還元(とその応用分野としての電気化学)、熱化学(広くエネルギーの概念が解っているか)、化学平衡(その基礎理論としての反応速度、触媒のはたらきを含む)、有機化学の分野で芳香族化合物(芳香族エステルの構造解析、医療への応用として医薬品)、天然、および合成高分子(ゴムや機能性高分子を含む)等々は、頻出と考えてよいでしょう。

【制限時間に対する問題量】

 大問4題を1時間かけて解く事になるため、単純計算では15分で1題解ききれれば良い事になります。ただ、問題の質、量を鑑みるに全ての大問を15分で解き切るのは至難の業でしょう。必ず通覧を行い、問題の質を見極めて、解けるものから手際よく、短時間で正確に解いていきましょう。思考力、応用力が必要なレベルの高い問題が並んでいるため、高得点を取る事は難しいです。場合によっては潔く切り捨てて、解ける問題の精度を上げる方が得策かもしれません。くれぐれも時間配分で失敗して制限時間を無駄に使い切ってしまう事がないように注意しましょう。

2022年度(最新の過去問)の分析

さらに踏み込んで、最新の入試問題を具体的に分析したいと思います。
※以下、過去問をお手元にご覧になるのが理想的ですが、過去問がなくても問題なくお読み頂けます。

【第1問】

理論化学より、分留(分別蒸留)、すなわち2種類以上の液体同士の混合物から特定の液体を分離する方法が扱われていました。問3の質量パーセント濃度の計算は、モル分率の意味を正しく理解していれば即座に計算できます。不安な人は質量パーセント濃度の定義式をモル質量とモルで書き直してみれば良いでしょう。実は計算が必要なのはこの部分だけなので、問題文の内容がしっかり理解できれば完答も可能でしょう。ただし、分留に関しての知識は、古くは中学校理科の第1分野でエタノール水溶液の蒸留、高等学校の化学では混合物分離の方法の一つとして、石油、液体空気の分留等として扱われますが、実験の装置図、ましてや状態図の1種である相図まで持ち出して考えさせる問題は大学入試の問題として、類題を解いた事のある人はほとんど居ないのではないでしょうか。多くの受験生にとっては初見の問題だと思われるため、読解力に秀でる事はもちろん、冷静さを保つ胆力も要求されます。その意味では難問の部類に入れても良いかもしれません。尚、医学部進学、特に難関校を目指している受験生の多くが使用していると思われる分厚い参考書には、コラム記事に実験装置図の記載は無いものの、原理の解説が載っており、例として取り上げられている事例(三種の相図)もHClとHNO3の違いはあるものの、ほぼ同じです。普段から発展的な学習を心掛けている受験生の中にはたやすく解いて第2問へコマを進めた人もあるいは居るのかも知れません。

【第2問】

理論化学より、光触媒、浸透圧の問題です。以前からよく出題されている無機化学の知識をベースにした総合問題で、熱化学、電気化学、浸透圧と盛り沢山の内容で、理論化学の醍醐味を味わい尽くせる至高の一品に仕上がっています。というのは大袈裟ですが、第1問と共に時間制限の枷を外して十二分に味わいたい問題です。反応速度論の基礎として、活性化エネルギーと触媒の作用に触れ、周期表上でチタン、ニオブの占める位置から酸化物中での各金属の電子配置、酸化数を考えさせたり、熱化学では起こっている反応(化合、分解、溶解、中和、電池、電気分解等)から発熱、吸熱の別を判断させたりしています。そもそも光反応プロセスで得るエネルギーが、化合物である水(液体)から単体の水素を得るエネルギー(水素を完全燃焼させて水(液体)を作れば水素の燃焼熱(=水の生成熱)が得られる、を逆に考えれば良い)から中和熱(予め中和反応で水が得られるが、この部分は光反応プロセスに含まれない)を引けば良いと気づけば簡単、気づかなければ計算の方針自体が立たないという厄介な代物です。で、最後に控えているのが浸透圧の計算です。イオン交換樹脂の隔壁(半透膜)を隔ててNaが移動する事で生じた濃度差で浸透圧が生じますが、一方が開放で一方が密閉のU字管の問題と見なせ、液面の高さが同じなので、大気圧+浸透圧=発生した水素の圧力の立式で良いのですが、発生した水素のモルを電気化学の計算で求めるという凝りに凝った問題で、記事を読んでいるだけで解く気が失せるのではないかと心配です。更に更に、ファラデー定数を9.65×104[C/mol] とし、電気量、温度もそれぞれ1.93×104[C]、27℃としてくれていれば、計算の労力が少しでも軽減できてスマートに解けると思うのですが、ご丁寧に有効数字2桁で9.6×104[C/mol] 、1.9×104[C]、25℃です。意図的に煩雑にしているのでしょうね。ただ、折角苦心して作った良問が「捨て問」扱いになってしまうのではないかと危惧しています。

【第3問】

有機化学より芳香族化合物の分離操作とニトロベンゼンからアゾ染料を得る一連の反応についての出題で、問1の空所補充から始まり、分離操作についての詳細について小題が3題(問2、問3、問6)とニトロベンゼンを還元してアニリンを得、塩化ベンゼンジアゾニウムを経てp-ヒドロキシアゾベンゼンに至る定番の問題(問4、問5)が2題の構成でした。この手の問題は簡略的に実験の流れ図で済ませてしまう事が多いのですが、実験操作を一つずつ丁寧に示して操作の意味を考えさせる問題で、普段省略されてしまっている実験の詳細(例;炭酸水素ナトリウムを加えての分離操作は分液ろうと内では行わず、ビーカーを用いて反応後、溶液の全量を、抽出用の有機溶媒(本問ではお馴染みのジエチルエーテルでは無く、酢酸エチル)とともに分液ろうとに移す、とか、有機溶媒として酢酸エチル(エステル)を用いているが故の注意点等々)を吟味する等、学習するにはうってつけの教材なのですが、問題を解くだけなら異様に易しく感じられる部分もあり、短時間で解き切って完答、ここは満点を確保しておきましょう。

【第4問】

有機高分子化学より機能性高分子化合物、特に生分解性ポリマーの一種;ポリアスパラギン酸をテーマとする問題でした。環状のアミドを大量に用意して開環重合でポリマーを合成する話も、ナイロン6の製法を引き合いに出して丁寧に説明がなされており、過去にポリ乳酸(生分解性ポリマーの一種で、こちらはラクチドの開環重合)の問題等を解いた経験が無くても十分対応できる内容でした。単量体がアスパラギン酸(α-アミノ酸の一種)なので、最後はアミノ酸の電離平衡で締めでしたが、全体的に平易で、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸の電離平衡(等電点の求め方もチェックしておきたい)まで含めて学習していた人にはややもの足りない内容でした。第4問も完答、満点を積極的に狙っていきたいです。

【総評】

「まずは空所補充をさせながら、問題の全体像をつかませ、多彩な内容の小題が続いて各問題のテーマを味わい尽くして終わる。」2022年度の小題は第1問と第2問が問5まで、第3問と第4問が問6までで構成され、例年通り国公立大学の入試問題でよく見るスタイルを貫いていました。内容は第1問と第2問の理論化学がともかく重く、全体のバランスを取るためか、第3問、第4問の有機化学、有機高分子化学が比較的よく見るタイプの問題でまとめられかなり取り組み易かったため、第3問、第4問は完答で満点、という受験生も多かったのではないでしょうか。
例年通り、各々の問題は学習のための素材として、時間を気にせず十二分に料理するのであれば、いくらでも利用価値があります。ただ、受験本番で制限時間内に合格点を取るという観点からは、全てを理解しようとせず、各設題のヒントを最大限に利用、例え初見の問題であったとしても何度も解いている基本、標準問題の延長上にある事を踏まえて、過去に経験している問題に帰着させて解く事です。例えば第1問は普通の蒸留装置(2017年出題)との相違点(蒸留管内に突起が有り、2本の温度計を用いている)の意味を考え、低沸点の物質が受器に得られる事に気付けば、相図の見方が定まり、共沸混合物(濃硫酸で蒸発乾固によって溶質のH2SO4を得る事ができない等、耳にはしている筈)についても誘導に乗って解答が可能だと思われます。問5(ⅱ)に関しても、水溶液中で塩が酸性を示す理由がNH4ClはNH4の加水分解で電離平衡がからみ、NaHSO4はただの電離なので電離平衡は無関係等の問題の類題と捉えれば解りやすいかと思われます。
以前にも問題分析で書きましたが、基礎の学習が充分出来ていて、応用系の問題に数多く当たれる方は難問を集めた問題集で時間制限付きで腕に磨きをかけるのがいいでしょう。ただ、基礎学力に不安を残している方はきちんと基礎を固めた上で、旧帝大の過去問等、良問を解きまくるという方針も思考力を磨くと言う点で、有りかと思います。数多く出題されている論述問題の対策にもなりますし。(2022年度の論述問題は第3問の抽出に用いる事ができる有機溶媒の条件の1題のみで字数制限も無し、と寂しい出題でした。)また、過去に出題された問題の類題が出題される事もあるので、過去問の演習も欠かせません。(2022年度の有機高分子の問題は2018年度の有機・高分子の問題(こちらはアドレナリン、天然ゴムがテーマで、かなり重たいです。多段階中和の滴定曲線を扱ったり、アミノ酸、タンパク質の問題を併せて出題したり、リサイクルの問題に言及したり、と類似点が多いです。)のコンセプトだけ引き継いでの使い回し劣化版とも言えるでしょう。第1問、第2問の理論化学が重いため、全体としては決して易化したとは言えません。いずれにしても、かなり柔軟な思考、発想、分析、推理、応用の能力を必要としますから、生半可な覚悟では臨まない事です。健闘を祈ります。

≪2022年度の目標値≫

化学を得点源にしたい受験生… 7~8割
他教科を得点源にしたい受験生… 6~7割

まとめ

というわけで、今回は東京慈恵会医科大学の化学についてまとめてみました。皆さんの参考になれば幸いです!

京都医塾ではご相談・体験授業を随時募集しています。下記リンクからお気軽にお問い合わせください。

投稿者:安達 康明

  • 役職
    化学科統括/化学科講師
  • 講師歴・勤務歴
    8年
  • 出身大学
    京都大学工学部
  • 特技・資格
    バレーボール
  • 趣味
    ゲーム、アニメ鑑賞
  • 出身地
    岡山県
  • お勧めの本
    ビーカーくんとそのなかまたちシリーズ

受験生への一言
なぜその思考が必要なのか、なぜこの解法なのかをキチンと理解できれば点数は必ずついてきます。その手助けをしていくことを最優先で考え、授業を進めています。合格のために出来るサポートは全力でやります。