京都医塾物理科です。
このページでは「産業医科大学の物理」についての過去問分析コメントを紹介します。
・“医学部受験に興味がある”という方
・“産業医科大学医学部”の受験を考えている方
・“産業医科大学医学部の物理がどのような問題か知りたい”という方
オススメの記事となりますので、興味のある方はご一読ください。
目次
概要
【形式・制限時間・配点】2022年度
形式:記述式
時間:2科目100分
大問数:3題
配点:100点(筆記試験全体の配点は600点)
出題の傾向と特徴
2016年度以降の7年分について、分野別の傾向をまとめます。
【力学】
毎年、1題は出題されています。出題テーマは
・「様々な乗り物内における重力(2022)」
・「トンボの模型における剛体の安定性(2021)」
・「浮力による立方体の単振動(2020)」
・「重心動揺計の仕組み(重心位置の測定)(2019)」
・「実験室系と重心系のそれぞれから見た気体分子の弾性斜衝突(2018)」
・「等加速度運動する支点につながれた振り子の運動、自転する球の放物運動(2017)」
・「宇宙エレベーター上のゴンドラから離脱するカプセルの惑星への着陸(2016)」
です。発展的な題材が多く、その場で与えられたモデルを読み解いて理解する必要のある問題もしばしば出題されています。また、深くまで考察させる問題が好まれており、定性・定量の両面からモデルを十分に理解しなければ、最後まで辿り着くことはできません。
【電磁気】
大問数が2題であった2016年度を除き、毎年1題は出題されています。出題テーマは
・「分布定数回路(2022)」
・「点電荷のつりあい(2021)」
・「誘電体を挿入した平行板コンデンサー(2020)」
・「重心動揺計の仕組み(荷重センサー)(2019)」
・「誘電体を挿入した平行板コンデンサー(2018)」
・「金属導線および電解質溶液の電気抵抗の導出(2017)」
です。偶然とは思いますが、誘電体を挿入した平行板コンデンサーが2回出題されています(2018, 2020)。2021年度のように平易な問題もありますが、やはり多くはその場で与えられたモデルの考察が要求されています。
【波動】
毎年、力学と電磁気から1題ずつ出題され、残りの1題は波動、熱力学、または原子物理のいずれかから選ばれています(ただし、2016年度は前述の通り大問数は2題であり、2020年度は4題でした)。
波動は、2016年度以降の7年間で、5題出題されています。出題テーマは
・「焦点距離を変えられる凸レンズを用いた物体の像(2022)」
・「自由落下する音源から発生した音波の観測(2021)」
・「海水面付近に発生する蜃気楼(2020)」
・「ロウソクの炎で観測する気柱の共鳴(2019)」
・「音波の干渉を利用した風向・風速測定装置(2016)」
です。特に、2019年度以降は、波動に偏った出題が見られます。典型かつ基本的な考察から設問が始まり、途中からそれを発展させるという構成が好まれています。そのため、問題独自のモデル把握がうまくいかなかったとしても、大問まるごと解けなくなってしまうというほどではありません。
【熱力学】
2016年度以降の7年間で、2題が出題されています。出題テーマは
・「微小粒子状物質(PM2.5)の分子運動論(2020)」
・「内部エネルギーが温度の4乗に比例する気体の等温過程と断熱過程(2018)」
です。2018年度は作業物質となる気体が理想気体ではなく(U∝T4)、大学レベル以降でエントロピーと定義される物理量を考察させているため、かなり敷居の高い問題となっています。一方で、2020年度は要求される知識は教科書的なものであり、設問自体も平易なものとなっています。
【原子物理】
2016年度以降の7年間で、2題出題されています。出題テーマは
・「レーザー光の照射(2019)」
・「X線の発生、ブラッグ反射(2017)」
です。2017年度の後半は深い考察が必要だったものの、それ以外については教科書的な基本知識で解き進められます。
【制限時間に対する問題量】
2022年度は2科目100分で大問3題を解答する必要がありました。1科目50分と考えると、大問1題あたりの時間は16~17分となります。かつてほどに難解な問題ばかりが出題されることは少なくなったものの、計算量は依然として多いため、時間的な余裕はありません。したがって、計算力が大きく得点を分けると考えられます。普段から、丁寧かつ迅速に計算する習慣をつけましょう。
2022年度(最新の過去問)の分析
さらに踏み込んで、最新の入試問題を具体的に分析したいと思います。
※以下、過去問をお手元にご覧になるのが理想的ですが、過去問がなくても問題なくお読み頂けます。
【第1問】
様々な乗り物内における重力を考察する問題です。本問では、重力が「地球がその中心に向かって物体を引く力」と定義されています。ただこの内実は、地球の自転の影響も無視されているため、結局は万有引力として考えればよいことが分かります。このことを正しく読み取ることができれば、いずれの設問も平易なものとなります。ただし、ばねの伸びはそれぞれの観測系に依存してつりあいを考える必要があるため、円運動するISSや自由落下する宇宙船の内部では、それに応じた慣性力を忘れずに考慮しましょう。
≪2022年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…9~10割
他教科を得点源にしたい受験生…7~8割
【第2問】
焦点距離を変えられる凸レンズを用いた物体の像を考察する問題です。図が(6)の選択肢内にしか与えられておらず、自分で状況を図に整理しながら読解する必要があります。また、与えられた情報がすべて文字式となっているため、具体的な数値による定量的な感覚に頼ることもできません。その一方で、物理として用いる関係式は基本的な公式(写像公式)程度であることから、数学的な考察力の有無が大きく点差を分ける問題となっています。
≪2022年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…7~8割
他教科を得点源にしたい受験生…5~6割
【第3問】
はしご状に組み込まれた抵抗による分布定数回路を考察する問題です。発展的な題材ですが、難関大には類題も見られるため(2020関西医科大学など)、経験があれば安心して解きやすい問題です。しかし、初見であったとしても、誘導が丁寧であり、また同種の問題の中では考察の程度も深くないため、比較的解き進めやすくなっています。本問も大問2と同様に、物理的としては基本的な考察しか求められていない一方で、漸化式を立てそれを工夫して解くという数学的な難しさがあるため、数学力が大きく点差を分けてきます。
≪2022年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…8~10割
他教科を得点源にしたい受験生…6~7割
【総評】
例年、難易度はやや難~難であり、あまり見慣れない非典型的な題材がよく出題されています。加えて、1科目あたり50分しか解答時間がないため、完答は極めて厳しいものとなります。そのため、計算力・読解力・思考力など総合的に高い学力を備えた上で、本番は短時間で集中して題意をつかみ、迅速かつ正確に解き進める必要があります。とは言え、問題自体が難しいので、6割の得点を目指せば十分です。
ただし、近年はやや易化傾向にあるので、解くべき問題を見定める重要性が増してきています。2022年度は、ある程度典型的で手の付けやすい問題が多く出題されたため、例年よりも高得点勝負になったものと思われます。
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