医学部専門予備校 京都医塾 » 京都医塾公式ブログ » 医学部入試問題分析 » 2022年度自治医科大学医学部の物理過去問対策・分析

京都医塾公式ブログ

2022年度自治医科大学医学部の物理過去問対策・分析

2022年度自治医科大学医学部の物理過去問対策・分析

 

京都医塾物理科です。

このページでは「自治医科大学の物理」についての過去問分析コメントを紹介します。


・“医学部受験に興味がある”という方
・“自治医科大学医学部”の受験を考えている方
・“自治医科大学医学部の物理がどのような問題か知りたい”という方

オススメの記事となりますので、興味のある方はご一読ください。

概要

【形式・制限時間・配点】2022年度

形式:マーク式(択一式)

時間:2科目80分

設問数:25題(ほぼ全てが小問集合)

配点:25点(筆記試験全体の配点は100点)

出題の傾向と特徴

2016年度以降の7年分について、分野別の傾向をまとめます。

【力学】

毎年、複数題が出題されています。出題テーマは

・「(小)小球の落下と跳ね返り、(小)地球とある惑星における静止衛星の軌道半径の比較、(小)空洞物体の重心、(小)2物体の衝突と水平ばね振り子、斜面上における2物体の運動の比較(2022)」

・「(小)2球の衝突、(小)十字剛体棒のつりあい、(小)単振り子、(小)液体中で空気を閉じ込めた容器のつりあい(2021)」

・「(小)ボールの落下と跳ね返り、(小)滑車とおもりを組み合わせた物体の単振動、(小)浮力による重心の上昇距離、(小)台とその上面に沿って動く小物体の運動、(小)軽い糸でつながった2球の運動(2020)」

・「(小)加速度運動する三角形の台上で静止する物体、(小)地球のまわりを円軌道で周回する2つの人工衛星の軌道半径の比較、鉛直ばね振り子(2019)」

・「(小)半円状の壁を滑り上がる小球の運動、(小)等加速度直線運動する小物体に対する外力の仕事、(小)あらい斜面上で物体が静止を保つ条件、(小)3個の小球の重心、(小)ばねでつながれた2物体の等加速度直線運動、(小)列車の運行における2駅間の所要時間、(小)3種類の液体で内部を満たした正方形管のつりあい(2018)」

・「(小)打ち上げた花火の最高点、(小)剛体棒のつりあい、(小)斜面上に自由落下させた小球の運動、(小)等速円運動に必要な向心力、(小)地球のまわりを周回する人工衛星、(小)台と台に固定された滑車を介した糸でつながった物体から成る3物体の運動(2017)」

・「(小)一部を水面下に沈めた円筒のつりあい、(小)剛体棒のつりあい、(小)月面上と地球上における単振り子の周期の比較、(小)ばねにつながれた2物体の連成振動、(小)小球と箱の衝突、(小)半球面をすべる小物体の運動、(小)壁ではね返った物体の往復運動(2016)」

です。問題数が多いこともあり、様々な題材をもとに作題されています。平易な問題もありますが、小問にしては解に至るまでの過程が長いものも少なくありません。単純な計算力だけでなく、定性的な判断力についても高いレベルで要求されています。

【電磁気】

毎年、複数題が出題されています。出題テーマは

・「(小)直線電流のつくる磁場、(小)対称回路、(小)コイルを含む直流回路、(小)導体球のつくる電位(2022)」

・「(小)抵抗に流れる電流、(小)直線電流のつくる磁場、(小)電池の起電力測定、(小)一様磁場中における荷電粒子の運動、(小)LC直列共振、一様電場中における振り子や輪に通した小球の運動(2021)」

・「(小)合成容量、(小)磁場中を動く導体棒に生じる誘導起電力と抵抗の消費電力、(小)球殻コンデンサーのつくる電位、(小)一様磁場中における荷電粒子の運動、(小)RLC交流回路(2020)」

・「(小)電池と抵抗から成る直流回路、(小)RL直列交流回路、(小)3個の帯電した小球のつりあい、(小)平行板コンデンサーの電圧、(小)磁場中で回転するコイルが受ける力、(小)非線形抵抗(電球)を含む直流回路(2019)」

・「(小)並列接続した2つの抵抗、(小)直列接続した2つのコンデンサー、(小)導線中で自由電子が受ける静電気力、(小)点電荷のつくる電場中における荷電粒子の運動、(小)一様磁場中における荷電粒子の運動、(小)コイルに発生する誘導起電力(2018)」

・「(小)電熱器の消費電力、(小)点電荷のつくる電場、(小)ダイオードを含む直流回路、(小)LC電気振動、(小)ヘリコプターの水平回転翼に生じる誘導起電力(2017)」

・「(小)分流器、(小)複数の点電荷から受ける力、(小)2本の直線導線を流れる電流がつくる磁場、(小)一様磁場中に進入するコイルに加える力、(小)平行板コンデンサー、(小)相互誘導、(小)一様電場中における振り子の運動(2016)」

です。こちらも、多岐の単元に渡って作題されています。交流回路も頻出であるため、単元の最後まできちんと基礎を理解しておく必要があります。

【波動】

毎年、複数題が出題されています。出題テーマは

・「(小)縦波と横波の性質、(小)ヤングの実験、(小)組み合わせレンズ、(小)ドップラー効果(2022)」

・「(小)円柱を通る光の進路、(小)薄膜干渉、(小)うなり、(小)気柱の共鳴(2021)」

・「(小)音波の干渉、(小)弦の共振、(小)パルス波の反射(2020)」

・「(小)凸レンズのつくる像、(小)ドップラー効果、(小)弦の共振、(小)正弦波の式(2019)」

・「(小)同じ向きの進行波の干渉による合成波の性質、(小)ドップラー効果、(小)気泡で全反射される光の割合、(小)虹が色づく理由(2018)」

・「(小)光の散乱、(小)定常波の性質、(小)ドップラー効果、(小)花火の音の振動数変化(2017)」

・「(小)音波の干渉、(小)2つの正弦波のある位置における位相差、(小)ヤングの実験、(小)平面鏡に映る像、(小)ドップラー効果、(小)薄膜干渉、(小)レンズのつくる像(2016)」

です。やはり、波動分野全般に渡り、様々な題材が出題されています。また、共通テストで出題されてもおかしくないような定性的な問題も目立ちます。

【熱力学】

毎年、複数題が出題されています。出題テーマは

・「(小)気体の状態変化、(小)2乗平均速度、(小)真空への拡散と状態変化、(小)円筒容器内の気体の状態変化、(小)熱効率(2022)」

・「(小)氷の融解、(小)気体の状態変化、(小)気体が外部にした仕事(2021)」

・「pVグラフにおける熱サイクル(2020)」

・「(小)気体の混合、(小)水と容器の熱平衡、(小)エネルギー回収型廃棄物処理施設における熱効率、(小)pVグラフにおける気体の状態変化(2019)」

・「(小)弾丸の運動エネルギーによる温度上昇、(小)定圧変化、(小)上昇する空気の温度が下がる理由、(小)ピストンで仕切られた2室の気体の状態変化(2018)」

・「(小)気体の分子運動と圧力の関係、(小)気体の内部エネルギーが増加する過程、(小)細い管で連結された2室の気体の状態変化、(小)氷と水の熱平衡(2017)」

・「(小)2乗平均速度、(小)pVグラフにおける気体の状態変化(2016)」

です。複雑な問題こそほとんどありませんが、分野全般から様々な題材により作題されています。

【原子物理】

毎年、複数題が出題されています。出題テーマは

・「(小)光電効果、(小)ブラッグ反射、(小)放射性崩壊、(小)水素原子から放出される光のスペクトル系列(2022)」

・「(小)α崩壊、(小)半減期、(小)電子線の性質(2021)」

・「(小)核融合、(小)X線の発生、様々な事柄についての基礎知識(2020)」

・「(小)光電効果、(小)中性子捕獲反応、(小)結合エネルギー、(小)α粒子の散乱実験(2019)」

・「(小)X線の発生、(小)放出エネルギーから見た恒星の質量変化、(小)放射性崩壊、(小)半減期(2018)」

・「(小)光電効果、(小)X線の発生・電子波の波長、(小)α崩壊、(小)半減期、(小)ブラッグ反射(2017)」

・「(小)放射性崩壊、(小)放射線の識別(2016)」

です。他の分野と同様に、原子物理分野全般に渡り、様々な教科書題材が出題されています。また、波動と同様に、定性的な考察や知識問題が目立つのも特徴です。

【制限時間に対する問題量】

2022年度は2科目80分で25題の設問を解答する必要がありました。1科目40分では、設問1題あたりの時間は1.6分となります。択一式で、かつ計算も煩雑になることは少ないですが、極めて厳しい制限時間で解答することになります。試験の場で即断即答できる問題を1つでも増やせるように、典型問題に対するアプローチについては、全分野・単元もれなく押さえておきましょう。

2022年度(最新の過去問)の分析

さらに踏み込んで、最新の入試問題を具体的に分析したいと思います。

※以下、過去問をお手元にご覧になるのが理想的ですが、過去問がなくても問題なくお読み頂けます。

【問題1~5】 

 自治医科大学の出題は、大まかではありますが、分野ごとに分かれています。問題1~5は、電磁気分野から出題されています。

 問題1は、磁針の振れる角度を求める問題です。直線電流のつくる磁場を外部磁場と合成しましょう。問題2は、対称回路を流れる電流を求める問題です。図形的な対称性から、電流が何等分されるかをよく読み取りましょう。問題3と4は、コイルを含む直流回路を考察する問題です。コイルは電流の変化を妨げる方向に起電力が生じることをもとに読解しましょう。問題5は導体球のつくる電位を考察する問題です。導体表面に電荷は一様に分布しますが、導体外部における電場の様子は中心に電荷が集中した場合と同じになるため、結局は点電荷のつくる電位公式から判断すれば十分です。やや方針に戸惑った受験生も多かったかもしれません。

≪2022年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…8~10割

他教科を得点源にしたい受験生…6~8割

【問題6~9】 

 問題6~9は、原子物理分野から出題されています。問題6は、光電方程式から光電子の最大運動エネルギーを求め、それをド・ブロイ波長の式に入れましょう。問題7は、ブラッグ反射についての問題です。ブラッグの条件を考えれば平易です。問題8は、2回のβ崩壊における原子番号の変化を考えるだけであり、平易です。問題9は、ライマン系列における最長波長とその次の波長の倍率を比較する問題です。リュードベリの公式(1/λ=R(1/n2-1/n2))を覚えておく必要があったため、厳しかった受験生も多かったものと思われます。なお、このような出題に対応するためにも、リュードベリの公式は可能な限り覚えておきましょう。

≪2022年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…7.5~10割

他教科を得点源にしたい受験生…5~7.5割

【問題10~13】

 問題10~13は、波動分野から出題されています。問題10は、縦波と横波の両方に当てはまる記述を全て答える問題です。選択肢に「1, 2, 4, 8」が振られており、これらの和を答えるという形式であるため、初見だと戸惑います。本問のような出題形式は初めてではなく、今後も出題される可能性があります。そのため、あらかじめその意味を理解しておきましょう。なお、設問そのものは平易です。問題11は、ヤングの実験を題材とした考察です。いったん明線間隔を定量的に式にしておけば、判断は平易です。問題12は、対物レンズと接眼レンズの組み合わせによる光学顕微鏡についての問題です。ただし、結局は凸レンズの焦点に対して物体を内側か外側かに置くかどうかで、像が実像か虚像かを判断できれば正答できるため、知識自体は中学理科レベルです。問題13は、ドップラー効果についての問題です。各観測者における振動数を式にすればよいだけであり、平易です。ただし、音源から出す音については振動数でなく周期を与えているなど、細かい点には注意しましょう。

≪2022年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…10割

他教科を得点源にしたい受験生…7.5~10割

【問題14~18】

 問題14~18は、熱力学分野から出題されています。問題14は、定圧・定積・等温変化において熱の出入りが伴う状態変化を選ぶ問題です。全て該当するので、これを選ぶ心理的な抵抗があったかもしれません。問題15は、同じ温度におけるH2とO2の2乗平均速度の比を考える問題です。同じ温度における理想気体は、その分子の平均運動エネルギーが等しいことが押さえておきましょう。問題16は、つながった真空容器への拡散とその全体を加熱した状態変化です。真空への拡散(断熱自由膨張)では、内部エネルギーが変化せず温度が変化しないことは、常識にしておきましょう。問題17は、円筒容器内の気体の状態変化です。与えられた情報から、状態変化の前後を状態方程式(ボイル・シャルルの法則)で比較すればよいだけなので、少し拍子抜けする問題です。むしろ、きちんと熱力学第一法則を適用しようと考えた受験生が戸惑ったものと思われます。問題18は、4つの熱機関の熱効率を比較する問題です。定義通り、e=1-W/Qin=1-Qout/Qinとして、QinQoutに各値を代入しましょう。

≪2022年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…8~10割

他教科を得点源にしたい受験生…6~8割

【問題19~22】

 問題19~22は、力学分野から出題されています。問題19は、小球の落下と跳ね返りについての問題です。自由落下により水平面と衝突させた場合、はね返り係数をeとして、元の高さのe2倍になることは常識にしておきましょう。問題20は、地球とある惑星における静止衛星の軌道半径の比較です。文字式を置きながら軌道半径の理論式をつくり、そこから比較しましょう。問題21は、空洞物体の重心を求める問題です。くり抜いた部分を元に戻したとき、全体の重心がOに一致すると考えるとよいでしょう。問題22は、2物体の衝突と水平ばね振り子を考察する問題です。弾性衝突に対して、完全非弾性衝突(一体化)の場合、以降の単振動における初速度が小さく、質量が大きくなります。定性判断も重要なので、手際よく考えていきましょう。

≪2022年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…7.5~10割

他教科を得点源にしたい受験生…5~7.5割

【問題23~25】

 全問題中で、唯一のまとまった部分となります。題材は力学から、斜面上における2物体の運動の比較考察する問題です。問題23は摩擦斜面上で滑り出す条件なので、平易です。問題24はBの初速度を問う問題ですが、AとBのそれぞれで斜面下端に達するまでの運動を独立に求める必要があるため、辛抱強く計算しましょう。なお、いずれも等加速度運動を行うだけであるため、物理としての分析は平易です。問題25も、方針は非常に立てやすいでしょう。ただし、24の答えに依存するため、その意味でも24を慎重に解きましょう。

≪2022年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…10割

他教科を得点源にしたい受験生…10割

【総評】

 例年、難易度としては基本レベルの問題が多く、煩雑な計算もほとんどありません。2022年度も、この通りの出題でした。ただし、合格者はその都道府県で2~3名と限られているため、高い正答率が必要となってきます。また、25題を1科目あたり40分で解答しなければならないので、1問にかけられる時間が非常に少ないです。そのため、素早く題意を読み取って計算する処理能力の高さが求められています。

まとめ

というわけで、今回は自治医科大学医学部の2022年度の物理の入試問題についてまとめてみました。皆さんの参考になれば幸いです!

京都医塾ではご相談・体験授業を随時募集しています。下記リンクからお気軽にお問い合わせください

投稿者:佐藤 寛之

  • 役職
    物理科統括/物理科講師
  • 講師歴・勤務歴
    14年
  • 出身大学
    京都大学理学部
  • 特技・資格
    作業に没頭できること
  • 趣味
    散歩
  • 出身地
    岡山県
  • お勧めの本
    高橋昌一郎「理性の限界」

受験生への一言
まず、目の前の問題が「解けない」という事実にこだわりましょう。解説を読んで理解した気になってはいけません。解けていない原因はほぼ間違いなく、基礎が理解できていないからです。自分でよく考え、それを先生に質問し、友達にも説明してみましょう。やがて、その一つ一つが大きな力へと結実していきます。