京都医塾物理科です。
このページでは「近畿大学医学部の物理」についての過去問分析コメントを紹介します。
・“医学部受験に興味がある”という方
・“近畿大学医学部”の受験を考えている方
・“近畿大学医学部の物理がどのような問題か知りたい”という方
オススメの記事となりますので、興味のある方はご一読ください。
目次
概要
【形式・制限時間・配点】2024年度
形式：記述式
時間：2科目120分
大問数：2題
配点：100点（1次試験全体の配点は400点）
出題の傾向と特徴
2016年度以降の9年分について、分野別の傾向をまとめます。
【力学】
2024年度を除き、毎年1題は出題されています。出題テーマは
・「ひもでつながった2つの小物体の斜面と水平面に沿った運動(2023)」
・「なめらかに接続された円筒面と斜面に沿った小物体の運動(2022)」
・「摩擦のある水平面上でのばね振り子(2021)」
・「摩擦のある水平面上でのばね振り子(2020)」
・「放物線の形状をした針金に通した小球の単振動(2019)」
・「斜方投射させた小球が壁を越える条件(2018)」
・「ばねを取り付けた台車と小球の衝突およびそれによるばね振り子の単振動( (2017)」
・「斜面上での2物体の衝突およびそれによるばね振り子の単振動(2016)」
です。
直近9か年のうち5回も単振動が出題されており、確実に頻出と言える単元です。特に、2020年度と2021年度は、いずれも摩擦のある水平面での単振動を分析する問題でした。
摩擦がある水平面においては、物体の移動方向が切り替わると、動摩擦力の向きも切り替わるので、それに応じて振動中心の位置が変化します。重要な着眼点なので、必ず押さえておきましょう。
【電磁気】
毎年、1題は出題されています。出題テーマは
・「キャリアの運動から考えた半導体の電気抵抗・ホール効果(2024)」
・「コンデンサー回路における無限回のつなぎ替え(2023)」
・「コンデンサーを含む直流回路(2022)」
・「ダイオードを含む直流回路(2021)」
・「RLC交流回路(2020)」
・「交流電圧の発生，RL交流回路(2019)」
・「電磁場中の荷電粒子の運動(2018)」
・「磁場中を動く2本の導体棒(2017)」
・「測定装置が回路に及ぼす影響(2016)」
です。
これらから分かるように、電磁気は力学に比べて、あまり単元の偏りはありません。2020年のRLC交流回路では、それぞれにおける電流と電圧の位相差をベクトル図で表す問題が出題されました。
抵抗では電流と電圧の位相差がありませんが、コイルでは電流に比べて電圧の位相が \(\frac{\pi}{2}\) 遅れ、コンデンサーでは電流に比べて電圧の位相が \(\frac{\pi}{2}\) 進みます。交流回路を分析する上では重要な知識となるので、教科書などで確認しておきましょう。
【波動】
直近9か年では2回出題されています。出題テーマは
・「台車に載せた水槽の水における水面波の干渉(2024)」
・「ドップラー効果による血流速度の測定(2016)」
です。
2016年度のテーマは、物理を医学へ応用したものですが、他大学でも類題がよく見られます（2018関西医科大学、2018東京慈恵会医科大学など）。一見難しそうな題材ですが、赤血球を反射板に見立ててしまえば、結局のところ反射を含むドップラー効果を考えているに過ぎません。特別な知識は必要ないので、問題に沿って解法の流れを確認しておきましょう。
【熱力学】
直近9か年では3回出題されています。出題テーマは
・「熱サイクル（定積。定圧・等温変化）(2022)」
・「カルノーサイクル（断熱・等温変化からなる熱サイクル）(2019)」
・「スターリングサイクル（定積・等温変化からなる熱サイクル）(2018)」
です。
2018年度と2019年度の問題は、どちらも熱効率が理論的に最大となる有名な熱サイクルをテーマとしたものであり、他大学でも類題がよく見られます（2021兵庫医科大学、2019愛知医科大学など）。そのため、一度は触れておきたい題材です。
なお、これらの理論熱効率 \(e\) は
\(e=1-\frac{T_L}{T_H}\) （\(e\)：熱効率，\(T_L\)：低温熱源の温度，\(T_H\)：高温熱源の温度）
となることが知られています。知識にしておくとよいでしょう。
【原子物理】
直近9か年では4回出題されています。出題テーマは
・「放射性崩壊(2023)」
・「光電効果(2021)」
・「ボーアモデル，コンプトン効果(2020)」
・「ボーアモデル(2017)」
です。
2017年度と2020年度でボーアモデルが2回出題されていますが、ほとんどは基本的な知識で解けるものでした。ボーアモデルはどのレベルの問題であれ、「(i)円運動の運動方程式、(ii)量子条件、(iii)振動数条件」の3式を連立して解いていくことに変わりありません。見かけ以上にワンパターンなので、類題演習を通して、最初から最後までの解答の流れをつかんでおきましょう。
【制限時間に対する問題量】
2024年度は2科目120分で大問2題を解答する必要がありました。2023年度までは同じ制限時間で大問3題の構成であったため、大きな変化がありました。1科目60分と考えると、大問1題あたりの時間は30分となります。しかし、1題あたりの分量は多く、思考力を要する難問も増えたため、時間制限が緩くなったわけではありません。
2024年度（最新の過去問）の分析
さらに踏み込んで、最新の入試問題を具体的に分析したいと思います。
※以下、過去問をお手元にご覧になるのが理想的ですが、過去問がなくても問題なくお読み頂けます。
【第１問】
題材は、キャリアの運動から考えた半導体の電気抵抗とホール効果です。Ⅰ-Aでは、まず半導体の電気抵抗を考えます。多くの前提条件をその場で読解しなければならないので、戸惑った受験生も多かったものと思われます。仮定するモデルは図解入りで丁寧に説明されているので、落ち着いて読み取りましょう。また、述べられている電気抵抗のしくみは、しばしば金属抵抗で考える典型問題のものと同様に議論が進むため、そういった問題の経験が十分であれば対応できます。ただし、文字式の組み合わせがあまり直感的ではなく、経験に頼ることができないので、慎重に式変形を進めていきましょう。
Ⅰ-Bは、ホール効果からホール電圧を求める典型問題です。議論そのものは、教科書通りで基本的です。ただし、前半に導出した平均速度 \(\bar{v}\) や電流 I を用いるため、その導出にミスがあれば、連鎖して失点してしまいます。前半の出来が後半の点数をそのまま左右するため、本番では大きく点差が開いたものと思われます。
≪2024年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…8～10割
他教科を得点源にしたい受験生…7～8割
【第２問】
台車に載せた水槽の水における水面波の干渉を考察する問題です。Ⅱ-Aでは台車が固定されていて、Ⅱ-Bでは台車が等速度運動をしています。こちらも問題文が長く、前提条件をその場で読み取って理解しなければなりません。しかし、やはり丁寧に図解されている通り、結局のところは2つの点波源による波の干渉を考えればよいことになります。それを踏まえれば、空欄1～3は平易です。必ず正答しましょう。
一方で、空欄4は難問です。誘導もないため、手詰まりとなった受験生も多かったものと思われます。こちらについては、空欄2と3で導出した関係式、および楕円の性質から
\(\mathrm{S_1A-S_2A}=\frac{1}{2}VT\)
\(\mathrm{S_1B-S_2B}=\frac{3}{2}VT\)
\(\mathrm{S_1A+S_2A}=\mathrm{S_1B+S_2B}\)
となります。これらを組み合わせて、\(\mathrm{S_1B-S_1A}=\frac{1}{2}VT\)を導きましょう。空欄5と6は、ドップラー効果の公式を適用すれば平易です。
Ⅱ-Bでは台車をy軸正方向に速度wで動かすため、波全体が床に対して同じ速度で動くことになります。似たようなものとしては、一定速度の風が吹くなかで音波が伝わる速度を考える状況が挙げられます。この場合、風がない場合の音波の速度と風の速度の合成速度として音波が伝わる速度が得られます。同様にして、台車が静止している場合の水面波の速度と台車の速度の合成速度を考えれば、最後まで完答できます。類題経験の有無が、大きく点差を分けたと思われる問題でした。
≪2024年度の目標値≫
物理を得点源にしたい受験生…7～8割
他教科を得点源にしたい受験生…5～6割
【総評】
2023年度までとは大きく様変わりし、大問数は3題から2題に減少したものの、類題経験を活かした発想力や深い思考力が必要な設問が増加しました。問題文には前提となる仮定や考察のヒントが細かく書かれているため、じっくりと問題文を読んでモデルを理解することが重要になってきます。
例年、大問の中で少しずつ現象を展開させ、それを設問で誘導しながら理解を試していく構成を取ることが多い大学でしたが、それが強く表れた出題となりました。今後もこの傾向が続く可能性があるので、注意して対策を講じましょう。
まとめ
というわけで、今回は近畿大学医学部の物理についてまとめてみました。皆さんの参考になれば幸いです！
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