皆さん,こんにちは.今回は3次方程式の解の公式その2です.
この記事が皆さんの目にとまっていると言うことは, 前回の記事のアクセス数が多かったってことかな?
素のツッコミは流して, <3次方程式の解の公式> を実際に使ってみます. 文字式で説明すると,このブログを書いている本人が混乱をするので,具体的な係数で方程式を解いていきましょう.
\( x^3-21x+20=0 \)
を考えます.因数定理を用いるとあれば,
\( x^3-21x+20=0 \\ \left( x-1 \right) \left( x^2+x-20 \right) =0 \\ \left( x-1 \right) \left( x-4 \right) \left( x+5 \right) =0 \\ x=1,4,-5 \)
と考えることができます.今回この解法は無しとして,まず前回の最後に紹介した因数分解の公式を確認しましょう.前回ご紹介した公式は
\( a^3+b^3+c^3-3abc = \left( a+b+c \right) \left( a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca \right) \)
でしたね.実は,さらに因数分解ができて
\(a^3+b^3+c^3-3abc \\ = \left( a+b+c \right) \left( a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca \right) \\ = \left( a+b+c \right) \left( a+b\omega+c\omega^2 \right) \left( a+b\omega^2+c\omega \right) \)
となります.ただし,\(\omega\)は\(x^2+x+1=0\)の解の1つです.誰が,何を思って,こんな式変形を思いつくのでしょうね.この等式が正しいことも,一応確認しておきますね.途中で次の\(\omega\)の性質を使います.
- \(\omega^3=1\)
- \(\omega^2+\omega+1=0\)
\( \left( a+b\omega+c\omega^2 \right) \left( a+b\omega^2+c\omega \right) \\ = a^2+ab\omega^2+ac\omega+ab\omega+b^2\omega^3+bc\omega^2+ac\omega^2+bc\omega^4+c^2\omega^3 \\ = a^2+b^2\omega^3+c^2\omega^3+\left( \omega^2+\omega \right)ab+\left(\omega^4+\omega^2\right)bc+\left( \omega^2+\omega\right)ca \\ = a^2+b^2+c^2+\left( \omega^2+\omega \right)ab+\left( \omega^4+\omega^2 \right)bc+\left( \omega^2+\omega \right)ca \\ = a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca \)
展開を頑張れば正しく成立していることがわかります.とにかく\(a^3+b^3+c^3-3abc\)は3つの一次式にいつでも因数分解できるってことです.このことから,\( x^3-21x+20 \)と\(a^3+b^3+c^3-3abc \)が同じ形に見えたら因数分解ができるんですよ.
ここで,\(a\)を\(x\)にして,順序を変えます.
\( x^3-3bcx+b^3+c^3 \)
ほら,似てきた.つまり,
\( \left\{ \begin{array}{l} b^3+c^3=20 \\ bc=7 \end{array} \right. \)
となる\(b\),\(c\)をみつければ,元の方程式を因数分解できるわけです.さて,2番目の式の両辺を3乗します.すると,
\( \left\{ \begin{array}{l} b^3+c^3=20 \\ b^3c^3=343 \end{array} \right. \)
となります.気づきましたか?\(b^3\)と\(c^3\)の基本対称式の値がわかりました.このことから,\(b^3\),\(c^3\)は\(t\)の2次方程式
\(t^2-20t+343=0\)
の解となります.ここで2次方程式の解の公式を用いると
\( t=10\pm9\sqrt{3}i \)
となります.この値に対して\(b^3\),\(c^3\)は
\( \left( b^3,c^3 \right) = \left( 10+9\sqrt{3}i,10-9\sqrt{3}i \right) \)
として問題ありません.これより,
\( \left( b,c \right) = \left( \sqrt[3]{10+9\sqrt{3}i},\sqrt[3]{10-9\sqrt{3}i} \right) \)
とわかります.すると,3次方程式が解けますよ!
\( x^3-21x+20=0 \\ x^3+20-21x=0 \\ x^3+b^3+c^3-3xbc=0 \\ \left( x+b+c \right) \left( x+b\omega+c\omega^2 \right) \left( x+b\omega^2+c\omega \right)=0 \\ x=-b-c,-b\omega-c\omega^2,-b\omega^2-c\omega \)
ここで,上の\(b\),\(c\)の値を代入しましょう.
\( x=-\sqrt[3]{10+9\sqrt{3}i}-\sqrt[3]{10-9\sqrt{3}i},-\sqrt[3]{10+9\sqrt{3}i}\omega-\sqrt[3]{10-9\sqrt{3}i}\omega^2,-\sqrt[3]{10+9\sqrt{3}i}\omega^2-\sqrt[3]{10-9\sqrt{3}i}\omega \)
さらに,\(\displaystyle \omega=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}\),\(\displaystyle \omega^2=\frac{-1-\sqrt{3}i}{2}\)を当てはめます.
\( \displaystyle x=-\sqrt[3]{10+9\sqrt{3}i}-\sqrt[3]{10-9\sqrt{3}i},-\sqrt[3]{10+9\sqrt{3}i}\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}-\sqrt[3]{10-9\sqrt{3}i}\frac{-1-\sqrt{3}i}{2},-\sqrt[3]{10+9\sqrt{3}i}\frac{-1-\sqrt{3}i}{2}-\sqrt[3]{10-9\sqrt{3}i} \frac{-1+\sqrt{3}i}{2} \)
これで解が求まったことになります.
「おい!何が “求まりました” や!」
「さっき \(x=1,4,-5\) って求めたやん!」
「似ても似つかん値やんか!」
「こんな、良く分からん式でごまかすな!」
などと言う声が聞こえてきますが,ごめんなさい.これが <タルタリア・カルダノの公式> の考え方なんです.式変形に嘘はなかったでしょう.この公式の意義は
- 代数的意義 3次方程式の解は係数の四則演算と根号で必ず表すことができる.
- 歴史的意義 虚数単位\(i\)を広めた.また,その有用性も知らしめた.
の2つが大きいと思います.また,受験生にとっては
・大学入試で問われることがある.
といったところでしょうか.一度は挑戦して欲しいです.なお,
\( \left( -2+\sqrt{3}i \right)^3 = -8+12\sqrt{3}i+18-3\sqrt{3}i = 10+9\sqrt{3}i \)
ですから,\(\sqrt[3]{10+9\sqrt{3}i}=-2+\sqrt{3}i\)となります.すると,
\( \displaystyle -\sqrt[3]{10+9\sqrt{3}i}\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}-\sqrt[3]{10-9\sqrt{3}i}\frac{-1-\sqrt{3}i}{2} \\ \displaystyle = -\left( -2+\sqrt{3}i \right)\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}-\left( -2-\sqrt{3}i \right)\frac{-1-\sqrt{3}i}{2} \\ \displaystyle = \frac{1+3\sqrt{3}i}{2}+\frac{1-3\sqrt{3}i}{2} \\ =1 \)
のように\(x=1\)を得られました.同様に,\(x=4,-5\)も得られます.大変でしたね.この <タルタリア・カルダノの公式> の考え方は京都医塾 円町校の授業でも扱っています.他にも歴史的,代数的に大事な考え方を扱った問題を紹介していますよ.
(2022/10/08)
上記内容にいくつか細かい間違いがあったので修正しました。