医学部の面接や小論文における対策を進めるうえでは、医療用語への理解を深めておくことも必要です。
たとえば、「インフォームド・コンセントとは何か?」と急に聞かれても、知識量が足りないと満足な受け答えができないはずです。
今回の記事では、面接・小論文対策の一環として、先ほど引き合いに出したインフォームド・コンセントについて解説していきます。
インフォームド・コンセントとはなにか、といった初歩的な疑問を解決するにとどまらず、その必要性など、さらに踏み込んだ疑問についても解説する内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
インフォームド・コンセントとは何か?
さっそく本題に入っていきます。
ここでは、インフォームド・コンセントの基礎知識を解説していきましょう。
インフォームド・コンセントの歴史
インフォームド・コンセントとは、現代における医療原則の一つであり、日本語では「十分情報を提供された上での同意」と訳されます。
ICという言葉が初めて使われたのは、1957年のアメリカでの医療過誤をめぐる訴訟「サルゴ判決」であると言われています。
しかしながら、この概念そのものの歴史は古く、起源を辿ると第二次世界大戦にまでさかのぼります。
みなさんもご存じのとおり、当時のナチスドイツでは、ユダヤ人を対象とした非人道的な人体実験が日常的に行われていました。
もちろん、被験者たちは「これから何をされるのか」、「実験の結果、どんな効果がもたらされるのか」といった事柄に関しては、基本的に知らされていません。
その結果、何の説明もないままに数々の実験が繰り返され、多くの悲劇が生まれました。
そういった歴史への反省から、インフォームド・コンセントの基本的な概念が芽吹いていったのです。
インフォームド・コンセントは患者が中心の考え方
先ほど述べた凄惨な歴史は、人類に多くの反省をもたらしました。
その反省から現代医療は、患者に治療を施す際に、病状や治療方針などを医師からしっかり説明し、納得をしてもらってから治療を進めていくように変化しました。
つまり、インフォームド・コンセントが確立したというわけです。
具体的な手順は、
1.医師による説明
2.患者側からの質問
3.患者側の理解と納得
4.患者の同意
といった具合に、4つの段階を経て進められます。
最初の段階では、医師側が病気やケガの状態をしっかり説明し、患者側へ治療方法を提案します。
その際、医療行為にともなう副作用の可能性なども、きちんと説明しなければなりません。
次の段階では、患者側からの自由な質問を受け付けます。
医師の説明だけでは伝えきれなかった情報があった場合は、患者側から質問してくれますから、きちんと答えて疑問点を解消していくのが主な目的です。
3つ目の段階は、患者側の理解と納得です。
この段階では、文字どおり、患者側から理解と納得を得られたかをきちんと確認していきます。
なぜなら、インフォームド・コンセントの基本的なスタンスは、あくまで患者の意志を優先して医療を行うというものだからです。
「今回の治療は強制でもありませんし、誰かに気を使う必要は一切ありません。
また、他の方法が希望なら要求することもできます」というメッセージを患者に投げかけて判断を仰ぎます。
そして、最終段階で同意が得られたら、同意文書に署名をしてもらい、治療開始という運びとなります。
ここまでが、インフォームド・コンセントの考え方の基本的な説明です。
この考え方の中には、患者の知る権利や選択する権利、要求する権利の3つが全て含まれています。
インフォームド・コンセントにもとづいて医療行為をする際は、これら3つの権利を尊重しながら進めていくのが肝心です。
インフォームド・コンセントはなぜ必要なのか
先ほどは、インフォームド・コンセントとは何か、という疑問に対し原点にまで立ち返って解説をしてきました。
ここでは、もう一歩踏み入って、インフォームド・コンセントの必要性についても解説していきましょう。
医者と患者の信頼関係構築のため
インフォームド・コンセントの歴史や基本的な考え方は、上でお話ししたとおりです。
凄惨な悲劇が繰り返された人体実験の歴史を振り返ってみた場合、医師と被験者の間には一切の信頼関係などなかったに等しいでしょう。
そもそも人体実験は一方的に被験者に処置を施す行為ですから、信頼関係などいらなかったのかも知れません。
しかし、かつてとは違い、現代の医療は患者中心という考え方のもと、信頼関係を非常に重視したものへと生まれ変わっています。
信頼関係がない場合、患者が非協力的になり治療が一向に進まず、医師と患者の双方が損をしてしまいます。
そのため、医師が患者に歩み寄り信頼関係を構築していく必要があります。
人権意識が根付いたというのも大きな理由ですが、根本的に医師と患者が手を取り合い、ともに病気やケガの治療と向き合っていく方が、効率的に治療を進められるということが広く理解されるようになったのです。
患者がより積極的に治療に参加できるようになる
インフォームド・コンセントでは、患者の意思決定のプロセスを非常に大切にします。
たとえば、ある病気やケガの治療を進める場合、治療方法が一つだけとは限りません。
複数の選択肢がある場合は、患者側でどの方法が自分に見合ったものなのか吟味し、最適であるものを選び取ることができます。
もちろん、選び取るまでの過程では、医師から積極的なアドバイスを受けられます。
このように、きちんと情報を得たうえで、自身の治療方法を選ぶことになりますから、治療への参加もおのずと積極的なものになるはずです。
患者や家族の権利が尊重される
インフォームド・コンセントのもとでは、患者や家族の権利が最大限、尊重されなくてはなりません。
なぜなら、インフォームド・コンセントとは、患者の知る権利や選択する権利、要求する権利を重視した考え方だからです。
患者に情報を開示し、治療方法を選択してもらうのは当たり前ですが、時として治療行為そのものを患者が拒否することも権利の一つとして数えられます。
このように患者のあらゆる権利を守るためにも、インフォームド・コンセントは大きな役目を果たすのです。
インフォームド・コンセントの課題
インフォームド・コンセントの課題には、いったいどのようなものがあるのでしょうか。
ここではインフォームド・コンセントにまつわる課題の中でも、主だったものを2点取り上げて解説していきましょう。
専門用語、治療の細かい内容を理解してもらうのが難しい
医師が診察の結果や治療方針などを患者に伝える場合、専門用語などは噛み砕いて、相手が理解しやすいように話す必要があります。
なぜなら、患者は医療の知識がない一般人ですから、専門的な言葉を並べただけでは、情報に食い違いが出てきてしまうからです。
しかし、医師のコミュニケーション力不足などが原因で、十分な説明にいたらず、情報の共有に不備が生じてしまうこともあります。
以前は医師の主導で一方的に治療方針を押し付けるケースもありましたが、現代ではそれが通用しないため、病気やケガの種類によっては、説明に苦労してしまう場合もあるというわけです。
説明に多くの時間を割くと、患者一人あたりの治療に時間がかかったり、治療が遅れてしまったりする可能性も否定できません。
この状況の改善が、現代医療におけるインフォームド・コンセントの持つ課題の一つとしてあげられます。
患者側が冷静に話を聞けない場合がある
繰り返しになりますが、インフォームド・コンセントを実践するにあたっては、患者側の同意と納得が最優先とみなされます。
しかし、患者側が冷静に話を聞くことができないケースもあるため、大きな課題となっています。
ここでは、がん治療を引き合いに出して例示しましょう。
ある患者のがんが手の施しようのないほどに進んでおり、余命3ヶ月もない状態だとします。
医師としては冷静な判断のもと、終末期医療に移った方が苦しみをともなう抗がん剤治療から解放されるし、精神的にも安定するはずだと提案するでしょう。
しかし、患者としては「ここまで頑張ったのだから奇跡に賭けたい」と言って治療継続を望む場合もあります。
客観的に考えれば、終末期医療に移り、残り少ない命を有効に活用した方が幸福になれるはずなのに、患者としては冷静になりきれず、辛いがん治療を選択するというケースもあるのです。
これはインフォームド・コンセントのジレンマとも言うべき事例の一つです。
医師と患者、どちらが正解かは難しい判断となりますが、「インフォームド・コンセントとは何か」を考えるうえでの重要なテーマとなるでしょう。
みなさんが医師の立場ならどういった対応をするか、一度考えてみてください。
医学部入試で押さえておきたいポイント
最後に、医学部入試で押さえておきたいポイントについても見ていきましょう。
ここでは、インフォームド・コンセントに関連する問題を、大学ごとに分けて解説していきます。
インフォームド・コンセントに関連する出題例
先ほどお伝えしたとおり、ここでは大学ごとに分けてインフォームド・コンセントに関連する出題例を見ていきます。
岩手医科大学の例(2020年 医学部本試験)
2020年度に岩手医科大学で行われた試験では、実践行動経済学と医療を絡めた問題、「患者とのコミュニケーションについて気をつけるべきこと」が課されました。
実践行動経済学とは、従来型の経済学とは逆の発想で消費者の行動を研究した学問です。
これまでの経済学では、私たち消費者は、常に合理的な行動を取るとされてきました。
簡単に言うと、無駄遣いはしないということです。
しかし、行動経済学では逆の見方をします。
私たちはセールのたびに実は欲しくないものを購入し、「限定商品」と聞くとついつい手に取ってしまう、そんな非合理的な行動をする生き物だと行動経済学では人間を定義します。
医療の現場でも、人間の非合理的な行動は珍しくありません。
岩手医科大学が出した問題は、まさに人間の合理性を欠いている部分を突いた一問です。
内容を要約すると、医師が手術の成功率を100人の患者へ伝えたというストーリーで、5年後の生存率は90%だと伝えた際、患者は安心したそうですが、逆に5年後には10%が死亡すると告げたところ、患者は不安感を感じたというものです。
これは同じ情報でも、伝え方によって患者の印象が変化することを如実に示しています。
こういった問題への対処法の一つとして、行動経済学関係の本も読んでおくとよいでしょう。
医療問題を絡めた行動経済学の書籍も売られていますので、そちらもおすすめです。
川崎医科大学の例(2019年度 医学部本試験)
川崎医科大学の試験はストーリー仕立てとなっており、医師と患者の問答の様子を読んで、問題点を論述するというものでした。
テーマの名前は、「医師と患者のコミュニケーションに関する問題点の有無」です。
この物語に登場する医師は、病気を患っている患者を入院させたいと考えますが、患者側は旅行の予定があるため、なかなか応じてくれません。
最終的には、医師側の「命の危険がありますよ」の一言で患者が折れるわけですが、「インフォームド・コンセントとは何か」という原点に立ち返った場合、医師の言動にはどんな問題があったのでしょうか。
こちらについても、意見がわかれるところが多々あるはずです。
このような設問には、ただ一つの正解があるわけではありません。
自分が医師の立場ならどうするか、医師としてどうあるべきかを問われる質問とも言えます。
何を問題点だと捉えるか、その理由とともに説明できるようにしておきましょう。
まとめ
今回は、インフォームド・コンセントの基本原則や課題などをお伝えしてきましたが、受験に際して覚えるべき医療用語はほかにもたくさんあるため、個人の力でそれぞれを覚えていくのは大変な苦労が発生します。
そんなときに大きな力となってくれるのが、医学部受験で高い実績を誇る「京都医塾」です。
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個人レベルでは実践できない効率的な対策を支援してもらえますから、つつがなく医学部合格まで走り切れるはずです。
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