目次
医学部の留学の種類
はじめに、医学部の留学にどのような方法があるかを解説していきます。
海外の医学系の大学に進学する
一つ目は、海外の医学部に直接応募し入学するという方法です。
これは日本の大学に入学するように海外の医学部に進学先とて受験をし、入学を目指すというものです。
海外の大学ということで英語のプログラムで入学することが一般的ですが、例えば現地語やドイツ語のコースなどで学生を受け入れている大学もあるようです。
留学する国によって出願書類は変わってきますが、基本的には願書、最終学歴の成績と卒業証明書、英語のスコアの提出をすれば受験できます。
また東欧の医学部であれば日本にある事務局を通じて受験をすることもできます。
国内の大学のプログラムで短期留学する
また国内の医学部のプログラムで短期留学するという方法もあります。
これは、国際性の高い大学であればあるほど提携している海外の大学が多く、より多くの短期留学の選択肢があります。
例えば、2021年の大学別国際性ランキングで52位にランクインした東京医科歯科大学は、11の留学・海外研修プログラムがあり、大学に用意されたプログラムだけで1学年約100人のうち20人がプログラムに参加しています。
交換留学制度を利用する
交換留学制度は日本の大学に籍をおいたまま、協定先の大学に定められた期間通うことのできる制度です。
現地で取得した単位を日本の大学の単位として置き換えることができることも多く、また費用も正規留学に比べて安く抑えることができます。
各大学により募集要項や期間、行き先などは変わってきますが、大学のプログラムでは数週間の留学が多いのに対し、交換留学は数ヶ月以上の期間が設けられていることが多い点も魅力です。
医学部留学のメリット
学力重視の受験を回避できる
医学部留学のメリットとして、アメリカなど一部の国を除き、日本のように学力重視の受験ではなく人間性やモチベーションを重視した審査で比較的入学がしやすいという点にあります。
その上で、日本と同レベルの医学部教育を受けることができます。
一生懸命勉強しているにもかかわらず、なかなか日本の医学部に合格することができずに何年も浪人している人もいるのではないでしょうか。
医学部に行きたいという強い気持ちを持っていながら、なかなか努力が実を結ばないという人にこそ海外留学は検討する価値があります。
しかしながら、簡単に入学できるほど甘くはありませんから、相当量の勉強は必要です。
受験科目が少ない
また、受験科目が少ないことも大きなメリットです。
これは特に、文系の大学生や社会人がやっぱり医師になりたいという時に、海外留学を考える大きな理由の一つです。
東欧の医学部であれば英語と理科(物理・化学・生物のうち2科目)で受験できるところも多く、さらにTOEFLやIELTSで一定のスコアを所持していれば英語の試験が免除される大学もあります。
英語の試験は足切りがあるため、ある程度の学力が求められますが、理科のテストの難易度は日本の医学部とは比べ物にならないほど易しく、教科書や基礎問題集を一通り完成させていれば十分に対応できるレベルです。
理系科目が重視されていないというのは、日本の医学部受験と比較して大きなメリットです。
経済的な負担が少ない
また、東欧の医学部は経済的な負担が日本の私立大学と比較すると非常に少ないです。
例えば、日本の私立大学で一番安い国際医療福祉大学の6年間の総費用は19,190,000円で、最も高い大学になると40,000,000円を超えてきます。
それに比べ、例えばハンガリーの医学部は、1年間の学費が約1,800,000円で6年間だと約10,800,000円、英語や理科の知識を補う予備コースと事務局に収める納入金を加えても総費用は約16,000,000円です。
また、物価や家賃も日本と比べると安く、生活費も抑えることができます。
さらに、海外留学では様々な奨学金を利用できる機会があり、さらに大学によっては現地の政府から無償で給付されるタイプの奨学金もあるようです。
将来の活躍の幅がひろがる
また、グローバル化が進む時代において、医師にも国際的に活躍できる人材がこれからますます求められます。
アメリカの医学部に留学すると、英語で医学を学ぶことができ、USMLE(米国医師免許)の受験も可能です。
EUの大学を卒業すればEUの医師免許を取得してEU圏で医師として働くことができます。
そして、日本の医師国家試験の受験資格の基準(教育年限や授業時間数等)を満たしている大学であれば、厚生労働省の審査を経て国家試験を受験することができ、日本の医師免許も得ることができます。
日本で医師になるにしても、これから海外からの患者さんがますます増えることが予想されるため、英語で医学を学ぶことは将来の活躍の幅が広がります。
医学部留学のデメリット
受け皿が少ない
日本の医師国家試験の基準を満たしていない海外の大学は、卒業しただけでは医師国家試験の受験資格がありません。
そのため、受験資格を得るために予備試験として筆記試験や実技試験に合格し、1年以上の実習を積む必要があります。
また、医師免許を取得した国で働く際に、大きな壁となるのが言語の問題です。
EU圏はその国の言語が第一言語であることが多く、実際に働くとなると、ある程度の現地語学力がないといけません。
その結果、海外の医学部を卒業しても、日本の医師国家試験を目指さざるを得ないという状況になることがあります。
語学習得の壁がある
海外の大学で医学部を学ぶため、英語の能力は必須となります。
東欧の医学部では、入学時に求められる英語力はiBT60点程度と、そこまで高くないですが、入学してからは容赦なく英語での授業が始まります。
医学部の授業についていくためには医学部の専門科目の教科書を英語で読んだり、教授の話すアカデミックな内容を理解したりする必要があります。
大抵は膨大な勉強量をこなすうちに慣れていきますが、それでも英語力に難があると授業についていくのが大変で、単位を落としかねません。
卒業するのが大変
最も大きいデメリットの一つが、海外の医学部は入学することは簡単でも、卒業することは日本の医学部に比べてはるかに難しいということです。
その要因としてあげられるのが、海外の大学の期末試験が筆記試験ではなく口答試験がメインであるということです。
例えばある科目の試験では、100個用意されているトピックの中から1トピックを引いて、そのトピックについて教授に対して論じなければならないというものがあります。
どのトピックを引くかは試験当日までわからないので100トピックちゃんと勉強しておかなければ対応できません。
そのための勉強をしなければならないので、毎日コツコツと勉強できる人でなければ簡単に留年してしまいます。
日本のように、普段はアルバイトやサークルに打ち込んで、試験前には過去問を解いて試験を突破するというような方法は通用せず、特に1~3年生の基礎医学ではかなりの勉強量を強いられます。
医学部生の留学先
アメリカ
アメリカの医学部いわゆる「メディカルスクール(4年制)」に入学するためには、その前に4年生カレッジを卒業する必要があります。
アメリカの医学部を卒業して医師免許獲得を目指すとなると合計で8年を要します。
入学のためには、学校の成績、エッセイ、推薦状、課外活動、テスト、面接の6つの要素を通じて合否を判断します。
気になる学費ですが、州立大学が年間約2,500,000円、私立大学が年間約3,500,000円、そしてメディカルスクールの学費が州立も私立も平均で年間5,000,000円前後となっています。
これらの学費は日本の私立大学と同等です。
入学難易度は高めですが、その代わりアメリカという医療最先端の中で医学を学べることは魅力的です。
また英語圏以外の国の大学だと、“international student”というくくりで他の国々からの学生と勉強するため、英語ネイティブの生徒や教授が少ないですが、アメリカではアメリカ出身の医学部生や教授と関わりながら勉学に励めるので、本物の英語力を身につけることができます。
アメリカの医師免許は持っていればアメリカ全土で働けるわけではなく、州ごとの免許となっています。
USMLEというstep1からstep3までなる試験を受け合格すると医師免許取得となります。
ヨーロッパ
イギリス
イギリスの医学部に留学するにはAレベル(Advanced Level)という日本でいう共通テストのような試験を受ける必要があります。
各教科A+~Eで判定され医学部の場合は化学や生物で3つ以上のAを取得していることが条件のようです。
また、最近ではAレベルではなく国際バカロレアという試験を採用している学校もあるので、大学の入学要件をしっかりとチェックしましょう。
イギリスの大学は例外を除きほとんどが5年制で、学費は外国人留学生の場合は年間約2,400,000円~3,600,000円程度とかなり高額です。
また、イギリスは物価が日本や世界の主要都市と比べてもかなり高いため、毎月の生活費が高額となることも考慮した方が良いかもしれません。
イギリスの医学部の教育の特徴として「患者中心の医療」を掲げ、臨床推論に非常に力をいれているそうです。
イギリスでは国家試験がなく卒業試験をクリアすれば医師免許を獲得することができます。
ハンガリー
おそらく日本で海外医学部留学を考えている人にとって最も有名なのがハンガリーへの医学部留学です。
これはHMU(ハンガリー医科大学事務局)という日本の事務局を通じて試験を受けることになります。
願書や成績証明書などの書類を提出し、試験を受けます。
ハンガリー医学部進学には、化学・物理・生物の科目を大学レベルの英語で1年間鍛えてから、1学部1年生を目指す予備コースと、直接医学部1年生として入学する本コースの二種類があります。
本コースは高い英語力と(iBT61点以上またはPBT500点以上、もしくは英検準1級以上)高校卒業程度の理科系3科目の英語での理解と知識が求められ、毎年日本の学生は数名程度が合格しているようです。
本コースに進みたい場合は、HMUが開催する本コース対策講座を受けることが一番の近道です。
これは実際にハンガリーの教授が日本へ1ヶ月程度訪れ、理科系3科目の科目を英語で教えるというものです。
本コースの試験は筆記試験の他に、面接でハンガリーの教授を相手に英語で理科系3科目の知識を聞かれ答える口頭試験も含みます。
一方、ほとんどの人が選択する予備コースはそのような英語で理科を理解している必要はありません。
英語と理科(化学・物理・生物から2科目)の試験を日本語で受けます。
筆記試験をパスすれば面接に進むことができ、ここではモチベーションや人間性が重視されます。
英語の筆記試験はiBT68点以上、またはIELTS5.5点以上のスコアを提出すれば免除されるようです。
英語試験は足切りがあるので、できるだけ高い英語力をつけておくことが鍵になりそうです。
ハンガリーの国立医学部は4つあり首都のブダペストにあるセンメルワイス大学の年間授業料が約2,000,000円、その他の3つの大学約1,700,000円~1,800,000円程度です。
これは日本の私立医学部と比較した場合、半分程度の学費です。
オーストラリア
オーストラリアの医学部はUEP(高卒入学)とGEP(学士入学)の二種類があります。
GEPの場合学士号が医学部入学の条件なので、その分卒業までに時間がかかることとなります。
大学によってどちらのプログラムを採用しているかは異なり、双方採用している大学もあればGEPのみを採用する大学もあります。
また、高卒の場合ファウンデーションコースと呼ばれる、日本の大学1年生が習うような教養科目を勉強するプログラムに通わなければなりません。
学費は最短で卒業できた場合約27,000,000~28,000,000円程度です。
オーストラリアも医師国家試験がなく卒業すれば医師免許を取得することができます。
中国
中国の医学部は5~6年制で、積極的に留学生を受け入れる大学も増えてきています。
基本的には中国語で授業が行われるため、中国語の習得が必須ですが、中国医科大学のように日本語・英語で授業を行っている大学もあります。
入学要件としては例えば北京大学では中国語検定(HSK)6級の取得が求められます。
その上で学科試験を受けて合格すると入学が認められます。
学費は約900,000円で、日本の国公立大学並みに安いです。
中国では日本と同じく医師国家試験に合格しなければなりません。
ただし合格率は30%と難関です。
まとめ
海外医学部留学は高校生だけではなく、医師を目指したい大学生や社会人にとっても開かれた道であるといえます。
現在では有名進学校からあえて海外の医学部に進学する高校生も増えており、学生の質も大きく上がっているので入学した後にも心強い仲間ができるでしょう。
要約すると、学力がある人よりも、医師になってからの明確な目標がある人、国際的に医師として活躍したい人、どんな辛い勉強にも耐えうることのできる精神力・忍耐力を持った人が向いているといえます。
東欧の医学部であれば学費も日本の私立医学部よりも安く、物価や生活費も安くすみます。
ただし入学してからの勉強は決して楽ではなく、甘い勉強をしていると容赦無く試験に落とされるため、進学する際は覚悟を決める必要がありそうです。
コロナ禍の昨今において医学に興味を持った人も多いかと思います。
そのような人たちにもチャンスがある海外医学部留学は、これからますます人気の選択肢の一つとなるでしょう。