医学部受験の二次試験では、医師として適性があるかどうか、医師に相応しい人間性かどうかを見極めるために小論文や面接が課されます。
扱われるテーマはさまざまですが、頻出とされる「覚えておくべき用語」については、しっかりと理解を深めておきましょう。
今回のテーマはトリアージです。
目次
トリアージとは
トリアージとは、災害時などで救急外来への患者が多い場合、看護師が症状や臨床推論などからそれぞれの患者の重症度を4段階に分けることです。
トリアージの語源はフランス語の”trier”(仕分ける)であり、その名の通り患者を仕分けることを言います。
トリアージは、それぞれの患者に優先順位を付けることで、助けられる命を確実に助けるために行われます。
災害時などの大量患者がいる場合のほかにも、医療現場がひっ迫した状態で、患者全員を時間をかけて診察できない場合にも用いられ、医療現場において救える命を確実に救うためには不可欠です。
実際に、阪神淡路大震災や東日本大震災の際には、病院に多くの重傷患者が来る中で、確実に救える命を救うためにトリアージが行われました。
また、このような自然災害以外でも、2019年に川崎で起きた無差別殺傷事件の際に使用されています。
現行犯を含めた合計20人が治療の対象となる中で、トリアージを行うことで、救える命を確実に救う動きがなされたのです。
トリアージは医療現場で用いられているものの、患者の目の前で優先順位を付けることに対する倫理的な問題もはらんでいます。
また、過酷な医療現場において、人力でトリアージを行うため、医療ミスとして咎められる可能性もあります。
実際に、東日本大震災のときには、トリアージをめぐって裁判が行われた例もあり、医療現場における課題の1つとも言えるでしょう。
トリアージタグの一覧
ここまで、トリアージの機能について解説しました。
トリアージの結果は、それぞれトリアージタグ(トリアージタッグ)を用いて、医師に分かるように可視化します。
トリアージタグは4色に分かれており、それぞれがタグの付いた患者の優先順位と重症度を示しています。
トリアージタッグの色と優先順位は下記の通りです。
赤(Ⅰ)
黄(Ⅱ)
緑(Ⅲ)
黒(0)
それぞれ順番に解説します。
赤(I)
赤のトリアージタグを付けた患者は、「最優先治療群」と呼ばれ、今すぐ処置が必要な重症患者として判断された患者です。
赤のトリアージタグを付けた患者の命を救うためには、今すぐ処置を行う必要があり、非常に危険な状態です。
赤のトリアージタグは、下記のような症状を持つ患者に付けられます。
・窒息
・出血多量
・ショック死などの危険性がある
・バイタルが不安定
赤のトリアージタグを付けられた患者は、最優先で診断および処置が行われます。
黄(II)
黄のトリアージタグを付けた患者は、「待機的治療群」と呼ばれ、処置や治療が少し遅れても命に別状はないと判断された患者です。
基本的に、トリアージを行った時点でバイタルが安定している場合に付けられます。
ただし、黄のトリアージタグが付けられた患者は、容体が急変する可能性があり、時間の経過によって赤のトリアージタグに変わる可能性があるため注意が必要です。
また、急な容態変化に備えて、こまめにトリアージを行い、経過を確認する必要があります。
緑(III)
緑のトリアージタグを付けた患者は、「保留群」と呼ばれ、命に別状はなく、専門医による処置も必要ではないと判断された患者です。
緊急性が低いため、ひっ迫した医療現場では、処置も行われず基本的には待機することになります。
自力で歩ける人や、人の肩を借りれば移動できる人などが対象です。
緑のトリアージタグを付けた患者は軽傷であるものの、身体の内部までは見れていないことを念頭に置く必要があります。
もともと呼吸器に疾患を持っている患者などの場合、外傷に関係なく、黄色や赤色のタグが必要になることもあります。
黄色のタグを付けた患者と同様に、定期的にトリアージを行い、こまめに確認することが大切です。
黒(0)
黒のトリアージタグを付けた患者は、「死亡群」と呼ばれ、救命不可能と判断された患者です。
既に息が無かったり、心肺停止であったりする場合に、黒のトリアージタグが付けられます。
黒のトリアージタグを付けられた患者は、一切の処置が行われず、実質死亡扱いとなるため、非常に慎重に判断することが大切です。
しかし、多くの患者の処置が必要な医療現場において、救える命を確実に救うためには、黒のトリアージタグを付ける決断も必要です。
また、黒のトリアージタグを付けた患者は、損傷が激しいこともあるため、なるべく一目の付かない場所に固められることも多いです。
院内トリアージの現状と課題
院内トリアージにおける課題の1つとして、アンダートリアージがあります。
アンダートリアージとは、本来付けるべき優先順位より低い優先順位のトリアージの判断をしてしまうことです。
逆に、本来よりも高い優先順位をつけてしまうことを、オーバートリアージと言います。
前者のほうが、より人命に関わるため、問題視されており、改善が急務であるとされています。
平成28年の8月に行われた、全国の救急看護認定看護師が所属する医療機関向けのトリアージの現状調査を見てみましょう。
有効票のうち、70%以上の医療機関でトリアージが利用されているという結果になりました。
先行研究によると、2013年のトリアージ実施率は50%程度であったため、実施率の改善は見られました。
これは2012年の報酬診療の改訂によって、院内トリアージ実施料が加算されるようになり、医療機関にとってトリアージを導入しやすくなったことなどが要因として考えられます。
逆に、30%の医療機関では、トリアージは実施されていません。
その大きな理由として、システムの構築不足や人手不足などが挙げられています。
より多くの医療機関で院内トリアージを実施するためにも、システムの構築支援をしたり、救急看護認定看護師の育成体勢を整えることが必要だと考えられます。
また、研究の中で3%の割合でアンダートリアージが確認されており、特に消化器系や呼吸器系の疾患で多く見られ、その次に心血管系、外傷と続きました。
先述した通り、軽傷で緑などのトリアージタグを付けられたものの、消化器系や呼吸器系の疾患によって、赤・黄相当の病状になることが稀にあります。
院内トリアージでは、これらの疾患を持った患者に対して適切にトリアージを行うことや、こまめにトリアージを行って、患者の状態を把握することが課題と言えるでしょう。
※参照:日本救急看護学会雑誌/院内トリアージに関する現状調査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaen/23/0/23_48/_article/-char/ja/
トリアージとJTAS
トリアージは、救急看護認定看護師という適切にトリアージの判定を行うスキルがあることを認められた看護師が行います。
しかし、それぞれの救急看護認定看護師にのみトリアージを依存すると、判定に個人差が生まれたり、誤ったトリアージをしてしまう可能性が高まります。
そこで、それらを補正するのがJTAS(緊急度判定支援システム)です。
JTASは、カナダで10年以上救急医療の現場で使用され、改善を繰り返すことによってできたCTAS(Canadian Triage and Acuity Scale)をもとに作られたシステムです。
CTASはトリアージを行う上で、非常に優秀なシステムとして、欧州諸国やアジアでも導入されています。
JTASは、CTASをもとに、日本の医療現場の実情を加味して作られたものであり、2012年から販売・活用されています。
現在でも、多くの研修が行われており、適切なトリアージを行う上で必要な要素の1つと言えるでしょう。
医学部入試合格のためのポイント
ここまで、トリアージの概要や現状について解説しました。
医学部入試における小論文や面接でトリアージの話題が触れられる恐れもあります。
また、医師国家試験においては、必須問題となるため、今のうちから概要を知っておくことも大切です。
医学部入試合格のためのポイントは下記の2点です。
・過去の例題を確認する
・トリアージを誰が担当するのかへの理解を深める
それぞれ順番に解説します。
過去の例題を確認する
医学部入試の際は、必ず志望校や受験校の過去問を確認しましょう。
その上で、過去問と似た傾向の問題や類似問題に慣れておくことが大切です。
特に小論文や面接での問いに関しては、大学独自の傾向を捉えて対策を行うことで、高得点を獲得できる可能性があがります。
過去問やOB、ネット上から情報を収集し、効率よく対策を行いましょう。
誰が担当するのかへの理解を深める
一部の大学では、トリアージに関する意見を述べる小論文が出題されたことがあります。
小論文を書くにあたって、医療行為を実施する主語が事実と異なると、論理が破綻した小論文になりかねません。
上述したように、トリアージを行うのは救急看護認定看護師であることを踏まえて、この役職がどのような役職であるかまで理解しておきましょう。
【小論文対策】医学部入試の小論文のテーマや書き方を徹底解説!
まとめ
本記事では、トリアージの概要や現状について解説するとともに、医学部受験で合格するためのポイントについて解説しました。
医学部受験において、医学知識が必要な問題は出題されないものの、トリアージの制度や仕組みに対して意見を述べることが求められる可能性があります。
主に小論文や面接対策として、トリアージのことは理解しておくと良いでしょう。
ぜひ、本記事を参考に、トリアージについて理解を深めてください。